【法廷ルポ】一審で無罪“紀州のドン・ファン”元妻に検察が控訴「合理的な疑い」控訴審のポイントは?「事件性」「犯人性」が否定された中…一筋縄ではいかない検察側の立証
■控訴審のポイントは…一筋縄ではいかない「合理的な疑い」の払しょく
控訴審は、一審で調べられた証拠のみをもとに、一審判決の妥当性について検討される。すなわち、検察側は控訴審で、今回の裁判で提出された証拠のうち、一審では無罪の理由とされた『合理的な疑い』を払しょくしなければならない。 ポイントはまず、一審で覚醒剤の入手が認められなかったことについてだ。氷砂糖を手渡したという売人Bの証言や「野崎さんから頼まれて購入した」という須藤被告の証言を崩すことができるのか。 特に、須藤被告が入手したのが「覚醒剤以外である可能性」を完全に排除できるかが重要になるが、氷砂糖を売ったと証言する売人Bが証言を180度改めるか、法廷での証言の信ぴょう性を否定する証拠を揃えるなど、一審からの大きな変化が必要となるはずだ。この、証明は一筋縄ではいかないだろう。 もう一つは、「野崎さんが誤って飲んでしまった事故の可能性」をどのように否定するのか。この部分の判断について、一審判決では「あり得ないとは言えない」「疑問が残らざるを得ない」「完全に否定することはできない」などと、曖昧な表現を多用しているのが印象的で、際どい判断だったことが伺われる。 しかし、野崎さんが摂取した可能性がない=自ら摂取することができなかった、もしくは摂取するはずが無かったことの証明を要するが、「ないものの証明が難しい」と言われるように、こちらも一筋縄ではいかないと感じる。 「疑わしきは罰せず」の原則のもと、状況証拠のみであっても、明確な基準のもと、「被害者が殺害されたのか(事件性)」「被告以外に可能性が完全に排除されているか(犯人性)」は慎重に判断されなければならない。その結果、今回のように「無罪」となれば、それは検察の立証が不十分だったと言わざるを得ない。和歌山地裁の判決は、不明瞭なものは不明瞭だとはっきり言い切ったものだといえる。 被告が一貫して無罪を主張する中、裁判員を含めて審議した一審判決が維持されるのか、それとも検察が判決を覆すだけの新たな立証を構築するのか―。控訴審の行方が注目される。