【法廷ルポ】一審で無罪“紀州のドン・ファン”元妻に検察が控訴「合理的な疑い」控訴審のポイントは?「事件性」「犯人性」が否定された中…一筋縄ではいかない検察側の立証
■犯行可能な立場にありつつも…「殺害したかは合理的な疑いが残る」
和歌山地裁の一審判決では、須藤被告が「犯行可能な立場にあったこと」を認定している。例えば、覚醒剤を飲ませる手段について、ビールに混ぜたり数十個のカプセルを飲ませたりすることは不可能ではないと判断した。(ビール自体に苦味があるとはいえ、覚醒剤をごまかせる程度かは疑問が残り、数十個のカプセルを違和感なく飲ませることもやや無理筋である印象も受けるが) しかし、主に検察の主張で『曖昧』だった部分について、裁判所は「殺害を強く推認させるほどのものではない」と一蹴。須藤被告が野崎さんに覚醒剤を摂取させて殺害したことについて、「合理的な疑いが残る」と判断した。つまり「怪しいが、須藤被告の犯行だと断言できるほどの証拠ではない」と判断したことが読み取れる。 以下、重要だと考える2つのポイントを挙げる。 <要点①>覚醒剤の入手 裁判では、須藤被告が覚醒剤購入にあたり接触した2人の売人が証人として出廷しているが、その2人の証言は割れていた。須藤被告に直接手渡したという売人Aは「覚醒剤を渡した」と話したが、もう一人のインターネット上でやり取りをし覚醒剤を用意した売人Bは「氷砂糖を売った」と話したのである。(なお、隠語としての氷砂糖ではなく本当の氷砂糖と主張する) 裁判所は、Aが嘘の供述をしているとは思えないものの、①覚醒剤を仕入れたのはBであり、AはBがどこから仕入れたのか知らないと答えた点、②実際の覚醒剤を見たのは暗い路上で、携帯電話の明かりを頼りに封筒の中をのぞいた一度のみ、という点などから、Bの主張するように氷砂糖であった可能性が否定できないと判断。「注文したところまでは認められるが、入手したとまでは認められない」と結論付けた。 <要点②>事故の可能 性判決文では、これまで提出された証拠から「野崎さんの自殺の可能性」と「須藤被告以外の他殺の可能性」は否定されている。残るは、野崎さんが覚醒剤を誤って致死量を超えて摂取した「事故の可能性」だが、これついて「完全には否定できない」と判断した。 例えば裁判所は、野崎さんが死亡する少し前に「覚醒剤やってるで。へへへ」と知人女性に対して電話していた事実を指摘した。冗談の可能性がある一方、何の背景もなくこのような発言をすることもまた考えにくく、冗談だとは決めつけられないとした。 他にも検察は、覚醒剤が入っていた「パケ」が自宅から発見されていない事実や、野崎さんが人一倍健康に気を使っていた事実などを挙げ、野崎さんが自ら覚醒剤を使用した可能性を否定していが、裁判所はいずれも「覚醒剤の使用を否定するほどの証拠ではない」としている。その上で、初めて覚醒剤を摂取した野崎さんが、「誤って致死量の覚醒剤を一度に摂取した可能性もまた否定できない」と結論付けた。