今年のサーペンタインパビリオンはチョウ・ミンスク。韓国の伝統家屋からイメージされた5つの建物とは?
韓国人として初めて選出された。伝統家屋の中庭「マダン」から着想を得たというヴォイドを中心に、5つの建物が放射状に配置されたデザイン。 【フォトギャラリーを見る】 毎年、ロンドンのサーペンタインギャラリー・サウス館の外に期間限定で登場する建築パビリオン。23回目になる今年の設計者は、韓国の設計事務所〈マス・スタディーズ〉を率いるチョウ・ミンスクだ。〈アーキペラジック・ヴォイド〉(群島と空洞)と名づけられた作品は、その名が示すようにヴォイド=中庭を中心に、5つの小島=建物が放射状に配置されたデザイン。5つの建物は屋根の部分のリング状の鉄骨でコネクトされているため、俯瞰で見ると丸い穴の開いた星形になっているのがわかる。「小島」の間にもそれぞれヴォイドがあり、外と中を自由に探索できる。 「中央のヴォイドは韓国の伝統的家屋にある中庭“マダン”をイメージしたものです。それを囲む5つの建物にはそれぞれ異なるファンクションを持たせましたが、それにこだわらず、自由に楽しんでもらうパビリオンを目指しました。主素材はロンドンから南に30kmほどのサリー州産のベイマツ材で、内外観とも黒く塗装しています。期間後に解体移築することも考慮し、低炭素型コンクリートの基礎の上に建つシンプルな構造です」。チョウはそう解説する。
では5つの建物を見てみよう。「オーディトリアム」は一番大きいスペースで、黒く塗装された内観にピンクの窓がアクセントに。多彩なイベントがここで開催される。「ティーハウス」はドリンクや軽食を販売するキオスクだ。ここで買ったものを周囲の芝生で、雨なら屋根の下で楽しめる。「プレイタワー」は子どもがよじ登って遊べるタワー状の建物だ。「ライブラリー」は自由に本を手に取って閲覧できる野外図書館である。「ギャラリー」はビジュアルの展示ではなく、サウンドインスタレーションに耳を傾けるスペースだ。夏用に《ウィロー》、秋用に《ムーンライト》と、チャン・ヨンギュウが創作したサウンド作品が流れている。ダイナミックかつシンプル、現代的で東洋的に寄りすぎず、天気の日も雨の日も、自然に囲まれてほどよい存在感を放つ。なかなかの力作である。
Serpentine South
Kensington Gardens London W2 3XA。10時~18時。月曜休。~2024年10月27日。期間中隣接のケンジントン公園内には草間彌生やゲルハルト・リヒターの彫刻作品の展示もあり。
text_Megumi Yamashita