「うまくやってよ」のしわ寄せで長時間労働――トラックドライバーに一晩密着。「働き方改革」は可能か
伊藤さんが仙台に到着したのは、周りが明るくなった午前6時ごろ。すぐに荷下ろし作業はできず、前の車の作業が終わるまで待機することになる。 今回の荷待ちは30~40分だったが、全国を走るドライバーのなかには2~3時間待たされる人も少なくない。中には21時間半待った人もいるという。しかし「客」である荷主には、強く抗議もできないのが現状だ。 夏の荷待ちはさらに過酷だ。荷待ち中はアイドリングストップを求められることも少なくないため、車内の温度は軽く50度を超える。ドライバーは待機中、順番が来るまで水と塩を口に含ませたり、トラックを降りて車の日陰で涼を取ったりしているが、熱中症による死亡事故も起きている。
荷待ちの大半は、待機場所が確保されていない。車体の大きいトラックは、コインパーキングに入れることもできないため、一般道では高速道路以上に駐車スペースを探すのは困難だ。 全日本トラック協会は、トラックドライバーの休憩場所として全国に「トラックステーション」を設置しているが、その数は年々減少。2年前まで全国に30あった施設は、現在24カ所となっている。主な理由は「施設の老朽化と道路需要の変化」だという。同協会の担当者はこう話す。 「新たな高速道路やバイパス等の開通により、利用される道路や流れも変わってきている。そうすると建設時には利用率の高かったトラックステーションも、利用者が減ってきています。利用者が少ないうえに老朽化する施設を維持するより、利用者が多い施設をより快適に使っていくことに力を入れたほうがよい、という方針です」
収入減少と人手不足が危惧される「2024年問題」
物流業界には、2024年に「働き方改革」による大きな変化が待ち受けている。働き方改革関連法は2019年にほとんどの職種で施行されているが、職業ドライバーは「長時間労働の改善に時間がかかる」という理由から、施行に5年の猶予が与えられた。同法が施行されることにより、職業ドライバーの時間外労働は年間960時間に制限される。 慢性的な人手不足や非効率な荷待ちが解消されないなか、労働時間が減ると、全国で荷物が運べなくなる事態が起こりかねず、業界はこれを「2024年問題」として危惧している。 大手の運送企業は、伝票のデジタル化やトラックの荷待ち時間の解消を図るためにDX化を進めているが、中小零細の企業には資金も技術も足りず、なかなか準備が進んでいないのが現状だ。