「本音と建前」が心をむしばむ――イタリア人精神科医が見つめる日本人の不調
(制作:ashifilms/Yahoo!ニュース オリジナル 特集)
異色のイタリア人精神科医、パントー・フランチェスコさん(32)。幼少期から日本のアニメやゲームに励まされ、日本で働くことを選んだ。ひきこもり問題を研究し、心の不調を抱える多くの患者を日々診療している。「日本人は自分の悩みを人に相談したりせずに、抱え込んでしまう傾向がある」。フランチェスコさんの目から見た生きづらさの理由、そして解決する方法とは。(取材・文:ノンフィクションライター・西所正道/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
幼少期、「セーラームーン」に憧れた
「精神科医の診察を受けて笑えたのは初めてですね。会うといつも『こんにちは!』って感じで元気だし、薬の説明をするときも、これを飲めば感情が安定するとか前向きに説明してくださるんです」 そう語るのは、30代の女性会社員Aさん。8年ほど、うつに悩まされ、回復と再発を幾度となく繰り返してきた。これまで6人ぐらいの精神科医や心療内科医の診察を受けたが、都内のクリニックで診察している医師によって症状はずいぶん改善したという。 その精神科医とはパントー・フランチェスコさん(32)だ。生まれも育ちもシチリアという生粋のイタリア人である。7年前に来日、日本の医師免許を取得し、現在、慶應義塾大学病院や複数のクリニックで診察にあたっている。 フランチェスコさんを大学院で教えている筑波大学・医学医療系の斎藤環教授はこう話す。 「日本の医師国家試験は日本語でしか出題しないため、非常に高い日本語能力の習得が必要で、欧米人にとっては相当ハードルが高い。医師免許を取れたとしても、日本では給与がさほどでもない。欧米人医師にとってメリットなんてほとんどないのです。だから欧米系の留学生が日本の医師免許を取る例は今までほとんどありません」 そんな圧倒的に不利な状況を分かったうえで、フランチェスコさんはなぜ日本に興味を持ち、精神科医を目指したのだろうか。
原点は幼い頃の趣味や体験にあった。フランチェスコさんは、エンジニアの父と生物学者の母との間に生まれた。二卵性双生児の姉がいる。性格は対照的で、姉はいつも陽気、弟の自分はいつも悲しげな顔をしていると言われたことがあるという。しかも幼い頃から同世代の男子と共通の話題をあまり持てなかった。フランチェスコさんは当時を振り返る。 「小学校の昼食後の休憩時間になると、ほとんどの男子はサッカーボールに群がりますが、僕は全く興味が持てなかったんです。好きだったのは、当時イタリアでもテレビ放映されてブームになっていた『セーラームーン』。ですから一緒に遊ぶのは女子が多かった。一緒に戦士の役をしたりして盛り上がっていました」 “なんで女の子と一緒に遊ぶんだ”ということで、男子から仲間はずれにされたこともあったし、暴力をともなういじめに遭ったこともあった。また高校の頃になると、ひきこもりに近い状態になったこともある。そんなときに気持ちを支えてくれたのが、日本のアニメやゲームだった。アニメならば「セーラームーン」の他に「エヴァンゲリオン」「犬夜叉」、ゲームでは「ゼルダの伝説」「ファイナルファンタジー」「ポケモン」……。