多様な事業へのコミットからみえてきたものとは。 DeNA ・今西陽介氏が語る仕事のスタンス
答えよりも問いを
DD:現場のリサーチはずいぶんしていたにもかかわらず? 今西:そうです。顧客の深層心理までは理解できていなかったんです。とはいえ、同じことを続けていても進歩はないので。進歩するためのよいチャレンジだったなと受け止めました。 DD:事業が上手くいっているからこそ、そのときの未来予測は一番むずかしいですよね。 今西:そうですね。たとえばゲーム事業をやっていたときを振り返っても、リサーチにずいぶんとお金をかけていましたが、その結果当たることもありますが、一方でリサーチすればするほど外していたような時期もありました。つまり、好きとか面白いとか楽しいとか、人の感情を揺さぶるものなんて、リサーチですべてわかった気にはなれないんです。だからこそ、そうした人間の欲求をちゃんと言語化して、再確認することが重要になります。 DD:リサーチの結果(データ)だけでわかった気にはなるな、ということですね。 今西:そのとおりです。データはとても重要ですし、ビジネスで物事を進めるときには、データありきで議論はすべきだと思います。でも、データばかり見ていると沼にハマってしまうんですよね。手段と目的があやふやになってしまうこともあります。大事なのは、データだけで把握できないお客様の感情の理解です。これはまだAIでも完璧にできないと思っています。 DD:なぜそのデータを見たいのか、という問いが重要ですよね。デジタル上だと、どうしてもダッシュボードがしっかりしていればわかりやすいし、現状の解像度も上がった気がする。 今西:そうです。答えを導き出す能力より、問いを作ることができる能力の方が大事なのかもしれません。お客様の事を考え続けると、新たな「問い」というのがビジネスとして出てくるようになるのではないでしょうか。
楽しくて成績のよいリーダーに
DD:なるほど。では次にマネジメントの経験についても聞かせてください。今西さんは数人から約100人単位と、大小さまざまなチームをまとめてきたと聞いていますが、今西さん流のマネジメント論はあるのでしょうか? 今西:経験則として、プロジェクトを前向きにして、楽しくなるようなリーダーは求められると考えています。陰ではなく陽タイプのリーダーです。もちろんチームには陰陽のそれぞれのタイプがいてもよいんですが、陽のポジティブ思考はリーダーに必要な要素です。しかし、陽のタイプといえ、楽しいだけで数字がまったく上がらないリーダーに人はついてきません。自分が所属している部署が負け組であれば、チームメンバーのテンションは上がらないですからね。ビジネスをちゃんと積み上げて、事業を前進させるのがリーダーだと感じています。 また、昨今、命令されて動くよりも自分で考えて動きたいという気持ちが強いメンバーが多い気がします。タイムパフォーマンスを重視して、すぐに仕事の成果や答えをほしがるという一面もありますが、まず自分で考えて動ける環境がいまのマネジメントには大事ではないでしょうか。もちろん、リーダーである私はチームメンバーの進捗をチェックしますが、メンバーが進捗を報告してくれているなら、メンバーの進捗が未達であった場合、すべての責任は上司にあると思うので、そのバランスを保ちながらマネージャーとして適切なサポートができるかですね。 DD:自分で考えて自分で良いと思ったことを進められるのは、やりがいにもなりますよね。 今西:そうです。また、「達成」「快楽」「没頭」「良好な人間関係」「意味合い」の5つの項目を上司として提供できているか、ということもよく意識しています。これはアメリカの心理学者であるマーティン・セリグマン博士が科学的な幸福の指標としているもので、可能な限り、この5つを感じられるような環境が大事だと考えます。これらが成立していれば、そのメンバーはどこにでも自走できるビジネスパーソンになれる可能性がありますし、周りの雰囲気もよくなりますね。人や環境にもよりますが、多くの場合、この5つが成立している環境は仕事をするうえでは「幸せ」を感じられるのではないでしょうか。
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