多様な事業へのコミットからみえてきたものとは。 DeNA ・今西陽介氏が語る仕事のスタンス
一次情報にこだわる
DD:なるほど。では、まずはマーケティングの経験について教えてください。これまでECやゲーム事業、はたまたヘルスケア事業などのマーケティングを手掛けてきたと思いますが、今西さんがとくに自身の成長に繋がったと感じた経験は何でしたか? 今西:思い当たるのは、ギャル系ファッションのバイヤーをやっていた時ですね。当時、DeNAと「ベルメゾン」で有名な株式会社千趣会が合弁会社を設立し、10代~20代の女性を主要ターゲットとしたモバイルECサイト「モバコレ」を展開しており、そこでバイヤーとマーケティングの責任者を務めていた時期がありました。 実は、事業の参考になればと昼はSHIBUYA109に、夜は渋谷界隈のクラブに通っていたんです。自分では全然そんなタイプじゃないと思っているんですが。やはりギャル系、ギャル男系ファッションの雑誌をいくら読んでも、雑誌に載っている人の事を心底理解するのは無理で、うわべでしかわからないんですよね。だからこそ、毎日通い詰める必要があって、そこで話して仲良くなって、お話をすることによって彼らの事を理解することが重要でした。 DD:ずいぶんとギャップがあるような……。 今西:私は見た目がギャル男ではないですもんね。もちろん、当時は自分自身が興味もないようなジャンルでした。でも、自分がまったく知らない世界だからこそ、触れているだけで面白かったですし、無理なことほどやった方が成長につながるというマインドは普段から持っていたので挑戦しました。当時、DeNAがファッションをビジネスにするのは、一定のチャレンジであり、事業戦略もマーケティングプランもゼロから築き上げねばなりませんでした。だからこそ、ギャル系ファッションを買う人がどういう生態で、どういう服がほしいのかという情報を知る必要があったんです。ここで得たノウハウはいまの仕事の軸にもなっています。 DD:毎日109やクラブに通っていれば、知り合いも増えてきそうですね。 今西:もちろんです。当社の幹部と渋谷を歩いているときに金髪ギャルの方から「今西さん、こんにちは~」とセンター街で数分ごとに挨拶されたことがあって、幹部から「君は一体どんな仕事をしているのだ?」と不思議がられたこともありました。 DD:ギャップがありますね。では、そこで得たノウハウのなかでも一番重要視していることは何でしょう? 今西:一次情報にこだわることです。一次情報、つまり、自分で見聞きして、自分が感じたことから、顧客が何を求めているのかを把握し、それを基に事業プランを作る。もちろん、人から得た情報(二次情報)も大切だと思います。ただ、事業を進めるにはロジックだけではなく、パッションが必要であり、そのパッションこそ一次情報に詰まっています。自分の目で見たり、口にしたりしたものは、自信を持って信じることができるし、人にも説明もして、事業を前に進めやすくなると思っています。 DD:実際、事業は成功したのでしょうか? 今西:通販サイトですが、約1年で億単位の売り上げが達成できるようになりました。それができたのも、一次情報にこだわって知識を蓄えていたからです。クラブに通って流行を把握したり、店を視察して実際に商品を手に取っているお客様がどういう表情しているのかなどを観察したりしたうえで、バイヤーとして仕入れ量のコントロールやサイトのUIUXにこだわっていました。 ただ、最初の売上がよかったからこそジャンルを広げようと思い、ギャル系以外の服を多く仕入れて失敗したこともありました。当たり前ですが、服の好みって、年齢を重ねることで変わります。だからこそ、ギャル系ファッションを好きな人も、タイミングがくれば赤文字系や青文字系の服を好むようになると予想して、下地を作っておこうと思ったんです。でも当時はダメでした。要はお客様のことを本当に理解していなかったんです。
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