【肥満と生活習慣病の関係】内臓脂肪が蓄積するとさらに太るという悪循環 肥満による慢性炎症を防ぐには「腹七分目」を心がける【医師が解説】
脂肪細胞から分泌される物質の中でも重要な働きを持つアディポネクチンとは何か。肥満が引き起こす慢性炎症を抑えるマクロファージを働かせるためにできることは何か。シリーズ「名医が教える生活習慣病対策」、九州大学大学院医学研究院病態制御内科学・小川佳宏主幹教授に話を聞いた。【肥満と生活習慣病の関係・後編。前編から読む】 【表】悪玉と善玉があるアディポサイトカインの特性を知ることが重要
アディポサイトカインには善玉と悪玉がある
長い間、脂肪はエネルギーの貯蔵庫と思われてきましたが、研究が進み全身の維持にかなり重要な働きを担っていることがわかってきました。 そのきっかけは、1994年アメリカの研究グループがレプチンというホルモンを発見したことに始まります。レプチンは脳に働きかけて食欲を抑えたり、体内の脂肪を再度エネルギーに変換し消費しやすくして体内の脂肪量を一定に保つ働きをしており、エネルギー代謝にとって不可欠な物質です。 レプチン発見を発端に、脂肪細胞から分泌される様々な物質の発見が続きました。代表的なのはFFA、TNF-α、PAI-1などですが、これに加えて日本で発見されたアディポネクチンもあります。アディポネクチンは糖代謝を活発にして炎症を沈め、動脈硬化を抑制する働きがあります。これらの物質を総称してアディポサイトカインと呼ばれますが、このアディポサイトカインには善玉と悪玉があることがわかってきました。ちなみに、レプチンとアディポネクチンは代表的な善玉の物質です。
内臓脂肪が蓄積すると食欲を抑えられなくなる
内臓脂肪が大量に蓄積すると、悪玉アディポサイトカインが大量に分泌され、善玉の分泌が減ることが分かっています。さらに、脂肪が溜まりすぎると、レプチンの効きが一層悪くなり食欲を抑えられなくなります。この結果さらに太るという悪循環に陥ってしまうのです。また、カロリーを燃焼せよという信号が伝わりにくくなるので、食べた分だけ脂肪が蓄積することになり、さらに悪玉アディポサイトカインが分泌されることになります。 肥満による身体への悪影響の大きなものとして慢性炎症があります。炎症には2つあり、よく知られているのがケガや細菌、ウイルス感染による炎症です。免疫系が総動員して炎症を起こし外敵を攻撃したり、組織を修復します。これが急性炎症です。急性炎症は発熱や痛みなどを伴いますが、時間の経過とともに収まってきます。 慢性炎症は、炎症が収まらずくすぶり続けている状態です。慢性炎症は内臓や組織から始まりじわじわと全身に広がっていきます。急性炎症が発熱などの自覚症状があるのに対して、慢性炎症には自覚症状がほとんどありません。 体内のどこかで急性炎症が起こると、その周辺の細胞から炎症を促進する炎症性サイトカインが放出されて免疫システムが稼働して炎症が収束していきます。一方、慢性炎症の場合は、炎症性サイトカインが継続的に産生され、正常な細胞や組織まで傷つけられることになります。炎症は、組織の修復や再生のサイクルが異常をきたしたために起こることも分かっています。 脂肪細胞が分解される際にも炎症が起こるのですが、脂肪が過剰に溜まっていたり、加齢で処理能力が低下していると、すぐに炎症を鎮静化できません。慢性炎症になると、細胞や臓器、血管などが傷つき障害されていき、最終的には病気発症に繋がります。慢性炎症が引き起こす病気として、糖尿病、脳梗塞、心筋梗塞などの生活習慣病だけでなく、潰瘍性大腸炎、喘息、関節リウマチ、うつ病なども慢性炎症が原因の1つと考えられています。