神宮外苑再開発問題、日比谷公園…木を伐っても伐っても「東京に緑が増えている」発言への違和感
十分議論されず、「トップダウン」で進む「再整備」「再開発」
一部大手企業による公的空間の私物化は海外でも起こりうることなのかという問いに、藤井教授はこう答える。 「日本では協議が十分なされていないということが根本的問題としてあると思います。フランスではコンセルタシオン(協議)が頻繁に繰り返された上で、何が求められる計画なのかの合意が得られて初めて具体化できるんです。 しかし、日本の場合、例えば日比谷公園は東京都が管理しているわけで、東京都の担当者は計画を十分わかっているはずなのに、計画段階から利用者や周辺の方々と一緒に検討するための問いかけや説明が十分なされておらず、都議会でも議論されません。 協議もしない、説明もしない、おりてきた話を市民もまた、そのまま素直に受け入れるのが当たり前になっている。本来であればそれをチェックしなきゃいけない立場の国会や都議会も十分に機能していないんです」 さらに、ストッパーになるべき公務員が機能していない点も大きいという。 「公務員の癒着問題がかつてあったために、癒着が起きないよう、公務員は3年前後で定期異動が行われるようになりました。 その結果、弊害として、専門家が育たなくなっています。例えば公園の樹木を大量に伐採する計画に対し、公園課の技術系職員が問題点を技術的な観点から指摘し主張できなくなったりしているために、知事や区長など首長の思い通りに進められてしまう状況が起こっているんですね。 他の国だと、大企業が私物化を企てても、公務員に当たる人たちがストッパーになるし、民衆自体が監視しているから好き放題はできない。 フランスで街路樹担当者にこの前ヒアリングしたんですが、20年も携わる職員がいるんですね。一方、日本の場合、街路樹担当者はほとんど素人で、公園についても同じことが起きています」 例えば道路などの土木では、公務員よりもゼネコンの発言力が強いのが実情だ。本来、公の事業を担う公務員の専門性が乏しいために、企業の論理に負け、利益を優先してしまうというのだ。 「公務員の定期異動により、スペシャリストがいなくなり、さらに菅官房長官時代に国家公務員の人事にまで手を出すようになったことで、骨のある官僚もいなくなりました。 また、大学も法人化に加え、『稼げる大学』などを要求され、地道な研究ができなくなっています。 大学を出た人間の質が落ちると、大学だけでなく小中高の質も落ちますし、世の中全体が落ちていきます。これは日本の構造的な問題なんですよ。それを正すのは、政治。まさに政治改革です」 藤井教授は世界的な基準「樹冠被覆率」の導入を自治体などに訴えているが、日本では一向に進んでいかない。しかし、微かな希望もあるという。 「先日、共産党の都議会議員10名くらいの方から街路樹の勉強がしたいということで、マイクロバスで都内を一緒にまわったんですよ。そして、樹冠被覆率の目標値を掲げようと検討されているようです。 高層ビルを建てる企業に便利な『公開空地』や、日比谷公園で進行しているような、樹木を伐採しまくり、全部芝生広場にしてしまう『緑被率』などの基準ではなく、温暖化やヒートアイランド現象への対応として世界的な基準になっている『樹冠被覆率』を日本も世界に倣って取り入れるべきだと思います」 取材・文:田幸和歌子
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