「レプリコンワクチンはシェディングを引き起こす......」。なぜ根拠のないトンデモ説は信じられてしまうのか? 免疫学の第一人者が解説
免疫学の第一人者として知られる大阪大学名誉教授の宮坂昌之氏が新刊『あなたの健康は免疫でできている』(インターナショナル新書)を出版。 インタビューの後編では、免疫力をいい状態で保つためにかかせない、免疫のアクセルとブレーキの役割や加齢と免疫力の関係、また近頃、話題になっている「レプリコンワクチン」について、解説してもらった。 ※前編はこちらから * * * ■大切なのはアクセルとブレーキのバランス ──本書を読んで、改めて感じたのが「免疫」は本来、私たちの体を守るための仕組みであるにも関わらず、それがなんらかの理由でうまく働かなくなると病気を引き起こす原因にもなる。つまり、免疫には「諸刃の剣」ともいえる側面があるということでした。 宮坂 そうですね。アレルギーなどはまさにその典型ですし、リウマチ(膠原病)などの自己免疫疾患は、健康を守ってくれるはずの免疫が自分の身体を傷つけてしまう病気です。例えばそれ以外でも、ワクチン接種で熱が出たり、接種した腕が腫れたりといった副反応も免疫の働きによるものです。 また、覚えている方も多いと思いますが、新型コロナのパンデミック初期、まだワクチンもなければ、有効な治療法も確立されていなかった時期には、新型コロナに感染した人の中に「サイトカインストーム」と呼ばれる免疫の暴走が原因で重症化し、それが原因で亡くなられた方がしばしばおられましたよね。 そう考えると免疫は、単にアップさせればいいというものではないということがわかるはずで、大事なのは免疫がバランス良く働くこと、もう少し具体的に言うなら免疫のアクセルとブレーキがそれぞれ、適切に機能することが、私たちの健康を維持する上でとても重要だということです。 ──免疫のアクセルとブレーキとはどういうことでしょう? 宮坂 免疫系のアクセルというのは免疫反応を前に押し進めるもので、免疫細胞が働いて異物を追い出すという過程のことを指します。私たちのからだにはリンパ球など免疫の仕組みを司る免疫細胞が何種類もあり、これらの細胞が異物に出会うと、活性化され、然るべき能力を発揮して、病原体を追い出してくれます。 一方、病原体が排除されると、今度はブレーキが効いて、一時的に増えた免疫細胞の数や機能が元通りに戻っていくのです。免疫細胞の中には「制御性T細胞」と呼ばれるものがあって、これが主に免疫反応の行き過ぎを抑えるブレーキの役割を担っています。 ところが、免疫系のアクセルとブレーキのバランスが失われると、先ほどお話した自己免疫疾患やサイトカインストームのように、免疫が働き過ぎて、結果として暴走し、自分のからだまで傷づけてしまったりすることがあります。 ここで、重要なポイントとなるのが「炎症」です。私たちの免疫は体内に入ったり、あるいは体内で生まれたりした「異物」と戦い、これを排除する過程で炎症を引き起こすことが多いのですが、そのときにさらに免疫のアクセルが踏み込まれると、ブレーキがうまく効かなくなり、そのために炎症がひどくなり、やがて組織が傷ついてしまいます。 たとえば、基礎疾患や肥満、あるいは老化などによって、からだの中で常に慢性的な炎症が起きている状態の人は、すでにアクセルが軽く踏み込まれている状態にあるといっていいでしょう。 そこに新型コロナウイルスが入ってくると、さらにアクセルが踏み込まれてしまい、結果的にブレーキが効きにくくなり、今まで軽かった慢性状態の炎症が急激に進んでしまうのです。これが免疫の暴走といわれる状態です。実際、新型コロナで重症化しやすかったのは、過度に肥満している人たちであり、高齢者であり、持病を有する人たちでした。