「レプリコンワクチンはシェディングを引き起こす......」。なぜ根拠のないトンデモ説は信じられてしまうのか? 免疫学の第一人者が解説
■加齢と免疫力の低下の関係 ──ちなみに、加齢による免疫力の低下は避けられないのでしょうか? 宮坂 そうですね。加齢とともに起きる免疫力の低下の理由は主にふたつあって、まずひとつは免疫細胞を作る骨髄の働きが、55歳を過ぎると若いときの半分以下に落ちてしまうことがあります。これは、もともと免疫細胞を作る能力が年齢に依存するものなので避けにくいのですが、後で述べるようにこのプロセスは健康習慣によりある程度抑えることができます。 もうひとつは、老化というプロセスそのものが持つ問題です。老化が進むと、遺伝子レベルで変異が起きやすくなり、正常で作られるはずのたんぱく質がうまく作られなかったり、遺伝子のコピーにエラーが起きて、おかしな細胞が出てきたりします。そうすると、われわれの免疫系はそれらを異物だと思い込んで殺そうとするので、先ほどお話した炎症が起きます。 ただし、ある程度、高齢でも日常的に運動習慣のある人たちでは、加齢による骨髄の機能低下が食い止められることがわかっています。また、運動により新陳代謝が高まるので、悪い細胞できたとしても排除されやすくなります。したがって、年齢を重ねても、日頃からバランスのいい食事をとるようにし、しかも運動をしっかりすると、こうした加齢による影響も、かなり抑えられるのです。 繰り返しになりますが、ここでも大切なのはバランスの取れた生活を実践することであって、確かに加齢自体は避けられないけれど、その影響は生活次第でかなり抑えられる可能性があるということです。ただし、何か特定のサプリや食品だけでどうにかなるものではありません。
■ワクチンは最も簡単に免疫力をアップできる ──いわゆる「コロナ禍」が終わり、普通の日常を取り戻した今も、新型コロナの流行は起きていますし、ウイルスの変異も続いています。新型コロナワクチンは重症化予防効果が期待できても、接種が始まった当初のように「高い確率で感染を防げる」というわけではないようです。こうした状況で、私たちは新型コロナのワクチン接種をどのように考えればいいのでしょうか? 宮坂 まず、新型コロナのこれからについてですが、コロナ禍が終わったといっても、当然、社会から新型コロナウイルスが消えたわけではありません。今も周期的に大きな感染の波が繰り返されていて、皆さんの身近でも「コロナに感染した」という話をよく耳にするのではないでしょうか。 今後、大きなウイルスの変異でも起こらない限り、今後もおそらく年2回程度の流行を繰り返すということが数年単位で続くと思います。そのような状況のもとでは、やはり感染をできるだけ予防することが大事で、感染者が増えればそれに比してウイルスが変異する確率も高くなります。 その上で、ワクチンの話です。インタビューの前編で特定のサプリや食品で免疫力のアップは期待できないと言いましたが、これに対して、ワクチンは最も簡単に免疫力アップを実現できるもののひとつです。 また、ウイルスが変異し続けている影響で、今のワクチンには以前ほどの感染予防効果がないというのは事実ですが、それでも接種から数ヵ月間は依然として一定の感染予防効果があり、重症化予防効果に関しては、少なくとも1年程度は続くと考えられています。 ですから、高齢者や基礎疾患がある人、あるいは子供でも糖尿病などの持病を抱えていたりする人は、ワクチン接種によって、できるだけリスクを低減したほうがいいというのが、今の私の考え方ですね。 また、ワクチンを接種している人と接種してない人で新型コロナに感染した際に口から出す感染性のウイルスの量を比較すると、ワクチンを打っている人は打っていない人に比べて、感染性ウイルスの排出量が圧倒的に少ないんですね。 これはおそらく、ワクチン接種によって獲得免疫が刺激され、このために、仮に感染しても体内のウイルス量が抑えられるからだと思われます。ワクチン接種は感染者の重症化リスクを減らすだけでなく、社会の中で流通するウイルス量も減らしているのだと思います。 そう考えると、重症化リスクが高い人たちだけでなく、患者さんと接する医療従事者や、たとえ若くて健康な人でも、自分の身近にお年寄りや基礎疾患を抱えた人がいる場合は、その人たちの感染リスクを下げる意味で、新型コロナワクチンの追加接種を受けたほうがいいと思いますし、それはおそらく今後も繰り返すであろう、新型コロナの周期的な流行の規模を抑制することにもつながるのではないかと思います。