【コラム】角田裕毅はホンダのドライバーなのか? それともレッドブルのドライバーなのか? そして我々にできること……
■ファンのみなさんにもできること。そして次の角田の”1ページ”
レッドブルの首脳陣の中には、角田という素晴らしいドライバーがいながら、なぜ日本での盛り上がりが足りないのか……そういうことに疑問を持っている人もいるという話を聞いたことがある。それが角田のレッドブル昇格を妨げた一因だった可能性はないだろうか? 確かに日本グランプリの際には、鈴鹿サーキットに10万人を超えるお客様が訪れる。角田裕毅のファンイベントの際には、1100人もの熱心なファンが、相模原市民会館に駆けつけた。これらのことは、実に素晴らしいことである。 しかし今の日本では、日常的にF1を始めとしてモータースポーツの情報が報じられることは少ない。一般の人たちはF1が開催されていることも知らないし、角田裕毅の名前さえ知らないかもしれない。 一方海外では、F1の話題が連日一般メディアも含めて報じられている。イギリスではハミルトンの活躍に狂気乱舞し、イタリアではモンツァにティフォシが大挙押しかけ、グランプリの週末には町中がF1の熱気に溢れかえる。メキシコではペレスの一挙手一投足が報じられ、フランコ・コラピントがデビューすればアルゼンチンのファンを世界中で見かけるようになった。マックス・フェルスタッペンを応援するオレンジ軍団は、どのグランプリでもスタンドのどこかを占拠する。アメリカでは年間3戦もF1を開催している。角田だって、今居を構えるイタリアなど、ヨーロッパ諸国で普通に街中を歩こうものなら、多くのファンに囲まれるという。つまり多くの国でF1は日常になっていて、F1ドライバーはスーパースターなのだ。 F1ファンの皆さんにお願いしたい。F1が好きならば、角田をトップチームのマシンに乗せたいならば、そして未来永劫F1日本GPが続いていくことを願うならば、もっと熱心にF1を見て、周囲の人にF1の魅力を語ってほしい。そうすれば、少しずつでもF1ファンが増え、一般メディアの興味を惹くことになるかもしれない。まずはそこからだ。 F1もモータースポーツもビジネスだ。儲かることは非常に大事。もしあるドライバーを起用することで露出が増え、収入が増える要素があるなら、ものすごく重要な付加価値になる。 角田はそのパフォーマンスもキャラクターも、そして世界で20人しかいないF1ドライバーのうちのひとりだという立場を考えても、日本でもっと一般的な知名度が上がってもおかしくない存在であるはずだ。その世界的な知名度は、他の様々な日本人アスリートと比較しても決して遜色はないし、ある意味ではそれ以上であるとも言える。ただその価値に、日本全体はまだ気付いていない。みなさんの力でもそれを気付かせてほしいのだ。 日本でのF1熱、モータースポーツ熱が湧き上がり、角田を乗せることでエナジードリンクの売り上げが大きく伸びるなら、レッドブルが彼をトップチームのマシンに乗せる際のハードルは下がる。角田を乗せることで新たなスポンサーのステッカーがマシンに貼られるならば、きっとレッドブルに乗れるはずだ。「角田を乗せないなら、レッドブルなんてもう買わない!」というツイートも多く見つけたが、それは逆効果。私は、今こそレッドブルを買うべきだと思う。 レッドブルのドライバーとして、キャリアをずっと生き抜いていくのは難しいことだ。それは、歴史が証明している。しかしレッドブル出身のドライバーが他チームへの移籍を成功させ、その後も活躍したというのも事実。彼らはレッドブル在籍時、その立場に甘んじることなく、その後も活躍できるだけの礎を築いた。パフォーマンスという面でも当然だが、ファンベースを成長させ、パーソナルスポンサーを抱え、ロビー活動を行ない、自身の立場を強化させる活動を怠らなかったのだ。しかしそれを成就させるためには、ファンの力も必要不可欠だ。 実力と人気、そして経済効果を兼ね備えているドライバーだと判断されれば、たとえレッドブル昇格を果たせなかったとしても、他のチームに移籍する可能性も広がる。2024年シーズン中にも、角田にはアウディやハースなどからもオファーがあったと聞く。そういうチームと交渉する際にも、母国での人気は大きな後押しになるはずだ。その中には、ホンダと組むことになるアストンマーティンだって候補に入ってくるかもしれない。 そういう意味では2025年は角田にとって、将来に向けた基盤を作る上、パワーアップする上で実に重要な1年ということが言えよう。そしてファンの皆さんも含め、我々にもそれを後押しできるかもしれない。みなさんがF1を、モータースポーツを存分に楽しんでくれること、そしてその輪が広がることこそが、今後の角田の活躍を、そして将来の日本のモータースポーツ界を後押しする一助になるるだろう。 2025年のお正月、ついそんなことを考えた。
田中健一