異常値ともいえる好調な米国消費 リスク要因は何か?
米国の消費動向が好調です。ただ第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストは、日本でかつて実施された家電エコポイント制度を引き合いに、需要の先食いの可能性を指摘します。藤代氏の解説です。 【グラフ】コロナ不況なのになぜ空前の株高? 謎ひも解く3つの要因
600ドルの追加給付金が直ちに消費に回る
最近話題の経済指標として、米国の消費統計があります。1月の小売売上高は前月比+5.3%と異常値的な伸びを示し、単月の振れ幅が大きい自動車やガソリンなどを除いたコア小売売上は前月比+6.0%と大幅に伸びました。なお、自動車の売上高は+3.1%、ガソリンは+4.0%でした。前月比+6.0%がどれだけのインパクトであるかは2005年を始点とするグラフではっきりとわかります。1990年代まで遡っても、ここまでの伸びを経験したことはありません(20年5月は例外)。
強さの背景にあるのは、米議会が昨年末に決定した1人あたり600ドルの追加の給付金です。米国の消費者は、1月中旬までに支給が完了された給付金を直ちに消費に回した形です。個別にみると家具(+12.0%)、電子製品(+14.7%)、衣料(+5.0%)、スポーツ用品(+8.0%)、百貨店(+23.5%)、オンラインショップ(+11.0%)といった具合に2桁の伸びを示すものが多く見られました。
消費対象となったのはサービスではなくモノ
ここで一つリスク要因に触れておく必要があります。まず認識すべきは、上記で示した消費は基本的に「財(モノ)」であるということです。財消費の行方を読むにあたっては、その特有なパターンを考慮する必要があります。というのも、サービス消費と違って「前倒し購入」が可能な財消費は、将来の需要を先食いしてしまうことがしばしばあるからです。コロナ禍で外食や旅行、エンターテインメントといったサービス消費が制限されるなか、おカネの使い道に悩んだ消費者が財(含む住宅)の購入を前倒しした可能性があり、そうだとすれば、この先は反動減を覚悟しなければなりません。 参考になる事例として、日本で2009年5月から11年3月まで実施された家電エコポイントがあります。商業動態統計(経済産業省)で家電量販店が含まれる「機械器具小売業」の売上高をみると、エコポイント政策を実施している期間中の販売好調と終了後の反動が綺麗に見て取れます。消費動向調査(内閣府)によると主要家電の平均使用年数は10~15年ですから、反動減はすぐには終わりませんでした。もちろん現在の米国や世界の状況が、当時の日本ほど極端でないとはいえ、米国を中心に、世界の消費動向を読む上でこの視点は頭の片隅に入れておく必要があると思います。 これは、製造業主導で上昇してきた日本株の先行きを占う上で重要かもしれません。最近の株高の背景に米国の消費増加(特に自動車)があったことに疑いの余地はないのですが、いつまでもその好調が続くとは限りません。コロナ感染状況が好転すれば、外食や旅行といったサービス消費の復活が強く期待されますが、財消費の先行きは慎重にみた方が良いかもしれません。
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