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「薬剤性認知症、これが現代医学の大きな問題の一つだと思っています」そう訴えるのは千葉県市川市に「市川フォレストクリニック」を開業した松野晋太郎医師だ。松野医師によると、降圧剤(血圧を下げる薬)や胃薬で認知症を悪化させてしまう人が跡を絶たないのだそうだ。一体どういうことなのか、ご本人に真意を聞いた。東田勉著『「認知症」9人の名医』からお届けする。 【画像】死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 認知症の標準治療の間違いに気づいた医師の話を聞きます。2015年5月、松野晋太郎医師は、コウノメソッド(河野和彦医師が提唱する認知症の薬物療法)の実践医として開業しました。クリニック名も河野和彦医師の「名古屋フォレストクリニック」に倣って(ならって)つけたほど、河野医師の影響を受けています。 コウノメソッドは、河野和彦医師が数十年にわたる自己の認知症治療の経験をまとめ、2007年にインターネットで公開した薬物療法のマニュアルです。認知症のこの症状にはこの薬を何ミリグラム使いなさいと、こと細かに解説されています。無料公開されているので、全国にはその処方に従う「コウノメソッド実践医」が大勢います。 コウノメソッドは、認知症に関して「誰でも名医になれる道」といえるでしょう。その中で、『「認知症」9人の名医』では松野晋太郎医師を取り上げました。河野和彦医師本人ではなく松野医師にしたのは、松野医師がコウノメソッドを習得したのちも研鑽を重ね、より良く進化させているからです。

認知症の症状改善9割 を目指す

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開業までの松野医師は、循環器内科医として大病院に勤務していました。そこから認知症専門医に転身したのも、開業したのも、コウノメソッドに出会ったからです。著者との対談で当時を振り返ります。 東田:2013年は、松野先生にとって大きな転換の年になりましたね。コウノメソッドの実践医になられ、週1回内科外来を担当している千葉県の大きな病院で新設の認知症外来を任されました。 松野:もう一つ大きな変化がありました。高齢者施設の訪問診療を行うクリニックの院長を引き受けることになったのです。 東田:では、認知症の利用者もいますね。 松野:結果的に、担当した9割が認知症でした。 東田:どんな気持ちで引き受けたのですか。 松野:認知症を学ぶために、そこへ行こうと思いました。いろいろなタイプの認知症の患者さんがいるはずですから。行くことが決まってから、集中的にコウノメソッドの勉強をしました。施設を訪問すれば、すぐに処方しなければなりません。2週間ごとの訪問が始まると、自分の処方によって患者さんがどう変わるのか、手に取るようにわかりました。毎回学ぶことばかりでした。約1年間の訪問診療のおかげで、コウノメソッドが相当、身についたと思います。 東田:訪問診療を行っていたのは、2013~2014年ですね。2015年に開業なさっていますが、その準備のような意味合いもあったのですか。 松野:そうです。約1年間の訪問診療で、認知症の症状の8割は改善できると思えるようになりました。これはあくまでも感覚で、データではありませんよ。それが9割になったら、開業しようと思っていました。 東田:かなり高い目標ですね。その後開業なさったということは、9割治せる感覚が摑めたのですか。 松野:僕自身としては、そう思っています。本当は、10割治したいのです。でも、それを言うと怒られることもあるんですよ、医療に完璧はないと。でも、目標は高く設定してもいいじゃないですか。9割でいいやと思っていたら8割になってしまいます。8割だったら、5人に1人は治せないんですよ。それじゃ惨めじゃないですか、医者として。僕は100人診て、1人でも治せない人がいたら落ち込むタイプですから。そんな高い目標は持たないほうがいいと言われますが、「いや全員治したいんだ」と思ってしまいます。そこだけは本能のようなものですから、変えられません。