角田裕毅に求められるマインドセット。戦い方を変えざるを得ないフェルスタッペン【中野信治のF1分析/第20戦メキシコシティGP】
アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲスを舞台に行われた2024年第20戦メキシコシティGPは、カルロス・サインツ(フェラーリ)がポール・トゥ・ウインで今季2勝目/通算4勝目を飾りました。 【写真】母国メキシコのファンから声援を受けるセルジオ・ペレス(レッドブル) 今回は予選・決勝とクラッシュが続いた角田裕毅(RB)、計20秒のタイムペナルティが課されたマックス・フェルスタッペン(レッドブル)などについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 新しいフロアの効果もあり、金曜日のフリー走行からいい走りを見せていた裕毅は、予選、決勝ともにトップ10入りを狙えるポテンシャルを持っていたと思います。ただ、予選はQ2でクラッシュを喫してしまい、もったいない11番手となりました。 今回新しいフロアが装着されたのは裕毅の車両だけで、チームメイトのローソンはアップデート前のフロアを装着していました。2台のタイムを比較してみると明らかにいい効果が出ているように感じます。RBにとって、この新しいフロアの効果を確認できたことは、このメキシコシティGPにおけるポジティブな要素だったと感じています。 ローソンが復帰して以降、アメリカGP、メキシコシティGPと苦しい戦いが続いている裕毅ですが、今後に向けてはまずミスのない走りを期待したいです。ドライバーの仕事はミスなくマシンのポテンシャルを100パーセント引き出すことであり、これが絶対条件です。 先述した予選もそうですし、決勝も位置関係が良くなかったということもありますが、裕毅も少し楽観的な考えでコースの外側からアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)に仕掛けていき、結果的にはそこで接触し、ターン1を迎える前にレースを終えることになってしまいました。今後に向けても、アクシデントの続いた今回のメキシコシティGPでの学びをしっかりと活かしてほしいです。 RBのクルマのポテンシャルも上昇傾向にあり、来季に向けても今が裕毅にとって最大のチャンスです。それだけに裕毅も、そしてローソンも何かしらのプレッシャーを感じているでしょう。普段の裕毅なら起きないミスが立て続けに出てしまったことも、そのプレッシャーの表れのようにも感じます。 だからこそ、今一度マインドセットをやり切る必要があります。裕毅はドライバーとしての速さについては疑いようのないモノを持っています。今の裕毅から、もう一歩上に行くためにはマインドセットが必須ですし、おそらくはそこがクリスチャン・ホーナー(レッドブル/チーム代表)やヘルムート・マルコ(レッドブル/チーム・コンサルタント)をはじめとするF1関係者が見ている部分だと感じています。裕毅には頭の使い方、思考の部分での成長を、サンパウロGPを含む今季残る4戦で見せてほしいですね。 また、今回のメキシコシティGPの最中、ホーナーがシーズン終了後のアブダビテストで、裕毅をレッドブルのマシンで参加させると言及しました。これは裕毅にとって、本当に大きな意味を持つことですし、裕毅が自分自身のポテンシャルをアピールするチャンスとしては、これほど大きなチャンスはないですね。 アブダビテストで裕毅の他に誰がレッドブルのマシンに乗るのかはまだわかりませんが、もしフェルスタッペンも乗るのであれば、裕毅とフェルスタッペンのタイムやデータ、フィーリングに関するコメントの直接的な比較が行われることになります。 レッドブルに対してアピールできる大きな機会であり、このチャンスを得られたことは本当にポジティブなことです。今季残る4戦でいい走りを見せ、アブダビテストでもしフェルスタッペンとの比較が叶い、そこで速さを見せることができれば……何かが動くのではないかと私は感じています。 未来に向けた動きは、アブダビテストだけに限った話ではなく、すでに始まっています。だからこそ、裕毅がいかにマインドセットをやり切れるかが大事になってくるでしょう。 チームメイトのローソンが速さを見せてはいますが、そんなローソンも自身のネガティブなアクションにより、自分を少し不利な状況に追い込んでいます。ある意味、これは裕毅にとってはチャンスです。 兄弟チームのペレスとのバトルの末、ペレスのサイドポッドとフロアにダメージを与えた上に、中指を立てるという絶対にやってはいけない行動をしてしまいました。興奮状態の中で反射的にやってしまったことなのかもしれませんが、RBのドライバーがレッドブルの、それも母国グランプリを迎えていたペレスに対してやってしまったことは、よりネガティブな方向で目立ってしまいました。 中指を立てるような相手を挑発するジェスチャーは、現在のF1ドライバーはやってはいけないことです。ローソンが成長しなければいけない部分のひとつが、自分の感情をコントロールすることですね。今後、ローソンがいかに成長していくかは興味深い部分です。 ただ、ローソンのような速さのあるドライバーがチームメイトという環境は、裕毅にとってはやはりポジティブです。ローソンという存在を意識したことが、裕毅はフリー走行1回目から3番手に入る速さ、そして集中力を見せていた要因のひとつにはなっているのかなと。同時にプレッシャーにもなっているとは思いますが、この状況が正しい方向で続けば、RBのポテンシャル向上に繋がり、コンストラクターズ選手権を争うハースとの戦いに向けても、いい影響を与えるのではないかと考えています。 ■追い込まれたレッドブルの2台 メキシコシティGPの決勝では、フェルスタッペンの2度のペナルティが目立つレースとなりました。一時はトップに浮上したフェルスタッペンでしたが、ランド・ノリス(マクラーレン)とのバトルの最中、ターン4でノリスをコース外に押し出したとして10秒、続くターン8でコース外走行でのアドバンテージを得たとして10秒、計20秒のタイムペナルティが課されることになりました。 フェルスタッペンがあのような戦いぶりを見せたのは、やはりレッドブルのレースペース不足、フェラーリとマクラーレンにマシンポテンシャルの面で歯が立たないという状況が大きく影響していますね。普通に戦おうとすると、今のレッドブルのクルマには勝ち目がありません。 だからこそ、フェルスタッペンは“使えるものはすべて使う”ことを選択したのでしょう。アメリカGPも含め、フェルスタッペンはドライビング・スタンダート・ガイドラインにある意味で従うかたちでバトルを繰り広げていたと思います。これまではガイドラインに従っていれば、少しやり過ぎな部分があっても許されるということがありました。ただ、メキシコシティGPでのフェルスタッペンは完全にやり過ぎていましたね。 前戦アメリカGPでの出来事を経て、このメキシコシティGPの金曜日に、FIA国際自動車連盟とドライバーたちの間で既存のガイドラインを改訂する方向で合意されました。今後に向けて、フェルスタッペンは戦い方を変えざるを得ないでしょう。フェルスタッペンにとっては、彼ならではの大胆なディフェンスやオーバーテイクができなくなります。 クルマが良ければリスクを伴ったオーバーテイクやブロックをする必要はありませんが、現在のレッドブルはリスクを伴わなければ戦えないマシンです。それだけに、フェルスタッペンはさらに追い込まれることになりそうです。 そして、メキシコシティGPが母国グランプリだったペレスでしたが、予選は18番手、決勝も17位と苦しい戦いが続き、自身も「これまでで最悪のグランプリ」と評する苦しいレースとなってしまいました。速さがなく、ドライビングも難しいレッドブルのマシンに加え、ペレスは自分自身の100パーセントのポテンシャルを引き出すことが難しい、かなり精神的に追い込まれた状況にいると感じます。 そんな難しい状況でマシンのポテンシャルを引き出しながらF1サーカスを戦うことは、本当に難しいと言いますか、ほぼ困難に近い状況です。追い込まれた精神状態の中で戦うということは、我々の想像を絶するところにあるでしょう。だからこそ、外野である我々が彼について、あそこがダメだとか、こうすればいいなんて言ったり、解説できることはありません。 ただ、同じレーシングドライバー、同じアスリートとしては、ペレスに少しでも自分自身が納得できる走りをしてほしい。彼の置かれている状況は、言語化できるほど簡単なものではありません。私がペレスと同じ状況だったらと考えると……おそらくもうポジティブに戦うことはできないでしょう。 今季残る4戦のなかでアゼルバイジャンGPのように、好走に繋がる何かきっかけがあればいいなと思いますし、とにかくペレス自身が納得できるレースをしてほしいと、心から願います。 【プロフィール】 中野信治(なかの しんじ) 1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。 公式HP:https://www.c-shinji.com/ 公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24 [オートスポーツweb 2024年10月31日]