マナー講座の「正しい挨拶の仕方」に確たる根拠はない…頭の悪い人が陥りやすい単純パターン化の落とし穴
■お金に支配された人生に人間的な喜びはあるか とりわけ、いまの若い人たちに知ってもらいたいのは、「不安定な人生こそが当たり前」と覚悟すること。誰の人生であっても、それぞれ変化に満ちているものです。多くの人は、人生の不安定さから逃れるために経済的安定や堅実を求めていますが、いったん経済的安定を手に入れたとしても、人生上の不安はなくなりません。それなら、初めから人生は不安定なものだと割り切りましょう。 そうすれば、変化や新しい出来事を平然と受け入れられるようになります。しかし、その不安定さが外から強制的に与えられているもの、例えば悪政によるものならば、闘うのがまともな人間の生き方になります。 それから、自分の「視野が狭く、物事の見方にもバイアスがかかっている」ということを自覚しましょう。人間は、関心のある物事にしか目を向けないので、現在の自分が見ている角度に基づいて全体を判断すると見誤るのです。 私は「偶像崇拝」の一種とみなしていますが、特定の価値観や主義思想、宗教などに強く縛られているのもよくありません。例えば、多くの日本人は、大金を手に入れたいと考えているでしょう。お金のためだけに働いているという人も多い。それは、お金さえあれば豊かなのだと信じているからです。 しかし、お金に支配された人生に人間的な喜びはあるのでしょうか。愛や助ける力、やさしさなど、人間としての本当の豊かさはそこには見られません。お金で得られるものは、誰かが勝手に価値をつけたものでしかなく、やがて無意味になって消滅します。つまり、お金を万能とみなすのは幻を追いかけていることなのです。 ですから、お金のために生きるといったような、特定のものに強く縛られた価値観を捨て、「とりたてて不自由なく暮らせればだいたい満足」という考え方に切り替えることで精神的な偶像支配の状態から解放されていけば、ようやく自由に自分のスタイルで生きられるようになるのです。それこそが、人としての「生きる喜び」と呼ぶものではないでしょうか。 ※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年10月18日号)の一部を再編集したものです。 ---------- 白取 春彦(しらとり・はるひこ) 作家 青森市生まれ。ベルリン自由大学で哲学・宗教・文学を学ぶ。哲学と宗教に関する解説、論評の明快さに定評がある。 主な著書に、ミリオンセラーとなった『超訳 ニーチェの言葉』のほか、『頭がよくなる思考術』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『この一冊で「聖書」がわかる!』(三笠書房《知的生きかた文庫》)、『行動瞑想 「窮屈な毎日」から自由になるヒント』(三笠書房)など多数。 ----------
作家 白取 春彦 構成=野澤正毅