マナー講座の「正しい挨拶の仕方」に確たる根拠はない…頭の悪い人が陥りやすい単純パターン化の落とし穴
■効率性を追求する企業が倒産してしまう理由 それにくわえて、私が強調したいのは、本当に頭がいい人は結局、「人間力」が優れているということです。例えば、人間力の高い人は、目先の損得勘定ではなく、「人間として何が正しいのか」を中心に置いて、物事を判断します。人間力の高い創業者が、社会貢献を最優先する社是を掲げた企業は、持続的に発展しているケースが多いのです。 「正直者がバカを見る」という諺がありますが、その諺は世間的なレベルのものです。ペットのイヌやネコは正直だからこそ、生き方がまっすぐで清々しいでしょう。 人間で、彼らと同じように正直に生きられる人は、そうはいません。確かに、正直な人は損をする場面があるかもしれませんが、他人とは別のすばらしい人生を送れるでしょう。それにまた、人間力の高い人は、常に人間性を重視し、合理性や論理性、利益のための効率性ばかりを追求しないものです。 この点にからめて紹介したいのは、聖書の『マタイによる福音書』に出てくるエピソードで、それは、ブドウ園の主人が夕方、仕事がなくて困っていた人を雇い、朝早くから働いた労働者と同じ日当を支払ったという話です。 朝から働いた労働者たちは、主人に「労働時間と賃金が見合っていないから不公平だ」と訴えました。しかし、夕方に雇ったのはブドウ園の都合であり、夕方から働いた人も生きていくにはまとまった資金が必要だから、主人は同じ額を支払ったわけです。労働力の対価という点では、労働者が主張する通りなのですが、賃金を「人間らしく生きる」ための基礎と考えるなら、ブドウ園の主人の判断こそ人間的には正しいと言えるでしょう。 それでは、今から頭をよくすることはできるのでしょうか? もちろん、可能です。ふだんからのトレーニングによって、頭は後からいくらでも鍛え、育てられるのです。そこで、ここでは、頭をよくするのに適した思考術をいくつかご紹介しましょう。 ■思考を広げる最も簡単な方法とは 頭をよくするにはまず、「本」をできるだけたくさん読むことです。物事を考えるには、思考の基礎材料となる「言葉」が必要だからです。そして、その言葉を知るには、読書が必要なのです。 読書をすればするほど、ボキャブラリーは豊富になり、問題を打開する思考ができるようになります。読書は、その本の著者から知恵を得たり、著書の考え方を追体験したりすることでもあります。したがって、読書量に伴って知識量が増え、思考の幅も、奥行きもどんどん広がっていきます。 本はどんなジャンルでもかまいませんが、まずは先人の知恵や経験が詰まっている東西の古典や有名な著書の頁を開いてみましょう。 ちなみに、頭がいいと私が思う古典の著者は、西洋ではドイツの文豪で政治家、科学者でもあったヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ、東洋では日本の曹洞宗の開祖、道元禅師です。 ゲーテは人間力が卓抜な人だったと、私は見ています。道元禅師は『正法眼蔵』の中で「有時(うじ)」というユニークな時間論を展開していますが、それは世界最古の時間論ではないかと、私は見ています。 古典の一つとして、聖書もお勧めです。聖書は西洋文化の基盤となっているので、聖書の3分の1か5分の1だけでもとりあえず読んでおくと、欧米で起こるさまざまな事象への理解が深まるようになるからです。 そして、どうにかして最後まで通読するのがベストです。それは本の全容と流れを把握するためです。即効性を求める人が多いようですが、じっくりと一冊を読み込むことがやがて自分の糧になります。それがどうしても不可能だというのならば、解説を読んでおいてその書物の全体をざっと理解しておくべきです。 最近では、「タイムパフォーマンス」がいいからと、「速読」の人気が高まっているようですが、かえって時間のムダです。速読では、マルクス・アウレリウスやデカルトなど簡単な部類の哲学書ですら読みこなすことはできません。速読で読めるのは、せいぜい中身が通俗的で読む価値のない本のみでしょう。