「暴力に対する沈黙は加害と同じ」 “DV被害者支援制度”を作った企業が見た別の景色
「ダイバーシティ施策の一環」としてDV被害者支援に取り組む企業も出てきている。日本で先陣を切って制度を導入したのは、監査やコンサルティング業務などを担う、大手プロフェッショナルファームのデロイト トーマツ グループだ。 【図と写真】企業でDV被害支援をするために必要なこと 同社が社内制度として「Domestic Family Violence被害サポートスキーム」を導入したのは2021年6月、およそ3年前のこと。 制度導入を担当した同社Diversity, Equity & Inclusion マネジャー 高畑有未さんにインタビュー、制度実現までを聞いた前編に続き、制度を導入してからの社員たちの反応や、見えてきた変化をお伝えする。
導入後「制度があったから生き延びられた」の声
同社では、配偶者やパートナー以外にも「Family」によるあらゆる暴力の被害を想定しDVを「DFV(ディーエフブイ・ドメスティック/ファミリー/バイオレンス)」と呼んでいる。支援制度の名称は「DFVサポート」。制度には2つのポイントがある。被害者の身体的・心理的安全性を最優先すること、そして働き続けられる環境整備を主軸に置くことだ。 「DV被害からの脱却にとって最も重要なことの一つに経済的な自立があります。 どうしたら従業員がDVにより離職せずに 働き続けることができるかを考えました」と高畑さんは強調する。 具体的な制度としては専門機関への相談、警察などへの同行支援、緊急避難など、まずは安全を確保するための支援を専門機関に依頼し、サービスを利用した費用は会社が負担する。加えて生活を立て直すための特別休暇(犯罪被害者等の被害回復のための休暇)も用意した。グローバル企業らしく相談対応は10ヵ国語に対応し、緊急避難場所は全国100ヵ所以上。さらに被害に遭っていないメンバーの理解啓発を目的とした社内研修やプロボノ活動も実施 するというものだ。 2021年に導入し現在までに複数の相談や利用実績があった。利用者からは「会社が提携する支援団体のおかげで生き延びることができ、感謝している」 という声も届いた。 ただ、高畑さんとしては、カップル の4組に1組がDV当事者という数字から見て、利用実績はまだまだ少ないと感じている。 「職場に相談していいことなのか、被害者が尻込みしてしまう空気感がまだ根強いと思います。だからこそ利用条件は極限までハードルを下げました。対象はDFV被害に苦しむ社職員本人で、性別・国籍・婚姻の有無それから同居/別居は問いません。提携の専門機関によるサービスはグループで働いている派遣社員や契約社員なども利用でき、シェルターに入る場合の費用も会社が負担します。社内周知のためハンドブックを作り、 個人情報や相談内容は一切会社には知らされないことなども盛り込みました」