「暴力に対する沈黙は加害と同じ」 “DV被害者支援制度”を作った企業が見た別の景色
課題は「自分ごと化」をグループ全体に広げること
制度はあるだけでは機能しない。働く人への情報提供を継続することやDVの啓発をセットで行なっていく必要があると、高畑さんは痛感している。 「以前の私自身がDV理解の解像度が低かったように、被害者の周囲の人が『これはDV? あるいはストーカーなんじゃないか』というセンサーが働かないと、DV被害者を実質放置してしまうようなことが起こり得ます。会社や社員が責められるべきではないのですが、対応次第では間接的にDV被害の拡大に加担してしまうことになりかねないわけです。DVは被害者の安全が脅かされる暴力であることや、別れてからも加害者側が被害者に執着し追跡する傾向が強いこと、加害者に被害者の居場所を特定されることは避けなければならないことを知っていないと同僚を守れない。DVを許さない社会を実現していくには、当事者ではない人もこの問題に関わり社会全体で防いでいくことが重要だと思うのです」 そのための啓発活動として、高畑さんらは新入社員へのオリエンテーションのほか、社内勉強会を年に1、2回行なっている。 「社内風土を変えることで、制度を利用しやすくする狙いがあります。人事や管理職についている人たちに、DV被害者がDVから脱却して生活を再建することを、企業として支援することは経営の観点でも必要なことなのだと認識してもらうことも大切です」 参加率は女性が大体6~7割、男性3~4割。参加者からは次のような声があがっているという。 「DV被害からの脱却を試みながら仕事を継続している。苦しいけれどどう人に伝えていいかわからない状況を、研修等で伝えてくれて心が落ち着いた」 「会社として社会課題に取り組んでいることは、従業員として心強く思う。被害者になっていることすら明かせない空気があると思う」 「勉強会でデートDVがいかに身近な課題かに気づき、支援者になれるように、と意識が変わった」 これまでで最も手応えのあった勉強会は、過去にDV被害当事者であった社員が「自分の経験を話してもいい」と申し出てくれ、社内勉強会の講師を務めた回だ。 「同じ職場で働くメンバーが語ることで、自分と遠いところで起きていることではなく、すぐそばで起きていることなのだと、DV問題認識への解像度が一気に上がった。この回の社内勉強会への参加率は何倍にもなり、終了後のアンケートでは参加者の100%が満足だったと回答しました。それぞれが、自分ごととして取り組む課題なのだという意識が持てたと思う」