「暴力に対する沈黙は加害と同じ」 “DV被害者支援制度”を作った企業が見た別の景色
企業の取り組みが抑止力になる
デロイト ではアジアパシフィック全域で、DV被害者支援制度を導入している。早々に導入に踏み切ったのが日本であり、他のエリアの担当者から導入について相談されることも増えた。コンサルティングやBtoBのビジネスを通じて関わる外部企業からの問い合わせも増えているという。 「育児や介護など、人口問題と密接に関わり社会性・公共性が高く、比較的表層的だったりする課題は取り組みやすいテーマだと思います。一方、DVや更年期、不妊治療のようなテーマは、何か主観的なことや個人的な問題とみられてしまって、そこに日本特有の自己責任論みたいなものが絡んできてしまう。個々人の中にあるつらさは可視化も定量化もしにくい。そのために、これまでは後回しにされてきたのだと思います」と高畑さんは分析する。 しかし時代は変わり、ハラスメント対策や育休制度の整備はもう当たり前のように行われている。 「それと同じくらいDV被害者支援を整備する企業が増えれば、DVの撲滅が見えてくるはず。なぜならDV被害者も加害者も、企業側からみれば一般の社員 たちです。被害者にとってのセーフティネットになるのはもちろんですが、加害者にとって抑止力にもなる。企業が貢献できることはいくらでもある」。そうした希望が、高畑さんの取り組みの支えになっている。 「人的資本経営とよく言われますが、経営的に重要な戦略としてもDV対策に関する制度を導入する意義は本当に大きい。DEIやSDGsの文脈においても、日本が今の状態から一歩先に進めるチャンスじゃないかと、私自身は思っています」 高畑さんはたくさんの人に関心を持ってほしいという思いから、今後も様々な方法で社内外の啓発活動を続けていくつもりだ。 「例えば、子どもの目の前での配偶者間のDVは子どもへの心理的虐待とみなされます。それほど子どもにも影響を与えることなのです。個人の力では変えられないと、何もせず傍観者でいるとしたら、それが構造的な差別や人権侵害につながっている可能性があると知ってほしい。社会を構成する一人ひとりにもできることはあって、それはこういうことですと具体的なアクションを示すことにも取り組んでいます。解像度を上げていく活動を今後も地道に続けていきたい」 「暴力に対する沈黙は加害と同義」とも言われる。暴力が行われていることを知りながら「当事者の問題」と自己責任論を押し付けるのは、加害に加担することになりかねないからだ。「企業」という大きな単位で支援することで、沈黙していた被害者もバイスタンダー(第三者)も行動を起こしやすくなる。何より沈黙をいいことに暴力を振るうものに対して、個人の何倍にも大きな抑止力になりうるのだ。
及川 夕子(ライター)