城氏が東京五輪を語る…日本が南アの「5-4-1」に苦戦し1得点に終わった理由とは?「アトランタ五輪は得失点差に泣いた」
前半32分には、堂安のスルーパスに反応して抜け出した三好が、相手GKと1対1になったが、左手で反応したGKのファインセーブに防がれた。絶対に決めなければならないケース。南アに「まだ無失点で耐えられる」と無形の力を与えてしまった。続けて34分には、スタメンに抜擢された林がオフサイドを取られ、先制ゴールが幻に終わった。飛び出すタイミングを見計らう冷静さを欠いたプレー。ここで得点できていれば、一気に大量得点につながっていたのだろうが、逆に苦戦する原因になった。 引いて守る相手を崩すために重要なのは「連携力」である。つまり組織としての工夫。例えばサイドを使う。出し手、受け手のタイミングを変える。3人目が運動量を増やす。あるいは、横パスから縦パスを上手く使ってのスピードアップとテンポの変化。ドリブルで強引に突破することも必要だった。ありとあらゆる引き出しを使い、南アの守備陣を揺さぶり、破壊せねばならなかったが、それが足りなかった。 右サイドからは酒井と堂安がワンタッチでボールを動かして崩しに成功しかけたケースも見られたが、特にドリブルを使うシーンが少なかった。 アフリカのチーム特有の伸びてくる足や、体を投げだしてくるようなプレーを警戒してドリブルよりパスを重視する戦略だったのかもしれないが、もっと勝負しても良かった。 また「連携力」が機能しなかった理由のひとつに、田中碧が前で攻撃に絡めなかった点がある。ポテンシャルが高く、パスも出せる選手だが、ポジショニングが中途半端だった。田中が高い位置を取り、彼から攻撃を展開することができれば、厚みのある攻撃ができただろう。 森保監督が采配で苦しい局面を打開する必要もあったかもしれない。後半15分に三好と相馬を交代。さらに12分後に上田、旗手を2枚替えしたが、相馬を入れたタイミングで上田を投入しても良かった。今大会は5枚の交代枠がある。膠着したゲームではベンチの仕掛けも勝敗を左右するポイントである。 チームを救った久保の後半26分の値千金のゴールは“さすが”と形容するしかない。田中のサイドチェンジのパスから始まったが、彼も久保が1対1になれる場所をよく見ていた。久保の特筆すべき技術は、そのパスを1センチの狂いもないトラップでピタっと足元に止めたことにある。通常、ああいう浮いたパスを止める際には、少し前に出てしまうもので、相手守備陣はそのタイミングを狙ってボールを奪いにくる。だが、あそこまでボールをコントロールされて“間合い”を作られると対応できない。久保は、南ア守備陣を凍り付かせておいて得意の右45度の角度に切れこみ正確にファーサイドを狙ってゴールを決めた。久保が持つワールドクラスの「個の精度」である。