「そんなことまで頼んでない」闇に葬られた山一証券もう一つの「報告書」 朝日新聞の記事で「情報リーク」を疑われた“マチベン”弁護士が真相を語るー平成事件史(19)戦後最大の経営破たん【インタビュー】
国広弁護士: 「法的責任判定」の報告書を提出したところ、山一証券側から「出過ぎたことはするな」という主旨のことを言われました。名指しで10人アウト、監査法人もアウトという結果の報告書を出し、しかもその公表を求めたことに対して、山一は「そんなことまで頼んでいない」って言い始め、顧問弁護士が前面に出てきて我々を押さえ込もうとしてきたわけです。 そうしたら、朝日新聞が独自に入手して内容をスクープしました。私は公表すべきだと強く主張していましたから、当然真っ先に疑われました。 顧問弁護士からも強く責められました。世間に公表すべきだと強く言っていたのが私ですから。公表をずっと反対され続けてきた私がブチキレて、朝日に出したんだろうと思われたわけです。 辛かったのは、「売名弁護士」と言われたことです。「倒産した会社を踏み台にして、売名をしようとしている駆け出しの弁護士がいるとすれば問題だ」という言い方をされたんです。私のことを指しているのは明らかで、しかも目の前で言われました。ひどい話です。 たしか、朝日新聞の記事が出た直後だったと思います。とにかく全新聞社に送りつけてやろうかと真剣に考えてましたから、確かに動機はあったんです。もちろんやってませんが。 社長の野澤さんがノーという以上は、公表は無理でした。 今は「第三者委員会」が自ら公表できるような制度にしたんですけど、当時はできなかったんです。 10年後に、実は朝日新聞にリークしていたのは、弁護士や公認会計士ではなくて、当時、山一の清算業務の責任者で、「社内調査委員会」や「法的責任判定委員会」を陰で支援してくれて「しんがり」の中にも登場する菊野晋治さんであることがわかりました。 2007年秋に「調査チーム」の飲み会に誘われたときのことです。その席で菊野さんが日本酒の徳利を持って「一杯飲めや」と私の前に座って、こう言ったのです。 「10年たったし、もう言うてもいいやろう…クニさん(国広)が疑われたじゃろう?あれを出したのはワシなんじゃ。クニさんが疑われるのは分かっとった。 でもあの報告書を闇に葬ってはいかん、山一が最後にまた隠ぺいで恥をさらしてはいかんと思った。じゃから、ワシが出してクニさんにひっかぶせたんじゃ。すまんかった」 わたしがポカンとしていると「あの状況じゃったら、みんなクニさんを疑って、ワシを疑うもんは一人もおらんかった。あれを出したのは、ワシにとって、“山一最後のおつとめ”だったんじゃ!」と朝日にリークしたことを打ち明けたのです。 さらに菊野さんは、朝日新聞がスクープした朝、その新聞を持って野澤社長の部屋に押しかけて「情報管理がなっとらん!」と怒鳴りつけたそうです。 「じゃから、ワシを疑うもんは一人もおらんかった」と笑いながら私に「告白」してくれました。私もつられて大笑いです。
【関連記事】
- 「大蔵省の責任を書かないという選択肢はなかった」山一証券社長は大蔵省から含み損の「飛ばし」を示唆された…“ミンボー専門”の42歳の弁護士が「調査報告書」に込めた思いとはー平成事件史(18)戦後最大の経営破たん
- 「山一証券破たんの調査をやってくれませんか」なぜ“ミンボー専門”のマチベンだった42歳の弁護士が、前例のない調査を引き受けたのか 今だから明かせる「報告書」をめぐる舞台裏ー平成事件史(17)戦後最大の経営破たん
- 「もう一度、東京地検特捜部で仕事がしたかった」がん闘病の妻を見舞うため病院に通う特捜検事 「ヤメ検」若狭勝弁護士の知られざる日々ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(16)
- なぜ警視庁幹部はワイロを受け取っていたのか、見返りは・・・小池隆一事件の「ブツ読み」から浮上した前代未聞の警官汚職ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(15)
- なぜ警視庁幹部はワイロを受け取っていたのか、見返りは・・・小池隆一事件の「ブツ読み」から浮上した前代未聞の警官汚職ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(15)