「そんなことまで頼んでない」闇に葬られた山一証券もう一つの「報告書」 朝日新聞の記事で「情報リーク」を疑われた“マチベン”弁護士が真相を語るー平成事件史(19)戦後最大の経営破たん【インタビュー】
実名で記載された山一経営陣や、大蔵省からの反論も予想されましたから、一つの間違いも許されませんでした。全員で全文の読み合わせをしながら一字一句、確認と訂正をしていきました。大体お昼くらいから始めて、終わるのが、12時間後です。それを6回繰り返しました。ここはこう書き足そうとか、ここはちょっと弱いから確認のために再ヒアリングをやろうとか、あくまで揺るぎない事実(ファクト)に基づく報告書にしようと、全員で練り上げていきました。 そして、公表2日前の4月14日、取締役会で承認を得るために、「調査報告書」を2時間半かけて全文朗読しました。内容にはほとんど文句はつけられませんでしたが、予想どおり、強く抵抗されました。 「社内調査委員会だから社長と取締役に報告すれば足りる。公表すべきでない」 「前例がない」 「公表すると訴訟を誘発する」 最終的には公表前日の4月15日に議決されましたが、あきれたことに、この段階でもまだ「公表」に異論を挟む役員がいたことも事実です。 ■陰の支援者が新聞社にリーク 公表されなかったもう一つの“報告書” ========== 国広弁護士の仕事は「社内調査報告書」で終わらず、もう一つの「法的責任判定委員会」にも関わることになった。 この委員会は、経営陣の法的責任、損害賠償を検証するもので、社員は入らず、山一から独立した弁護士と公認会計士のみで構成された。 調査の結果、「旧経営陣10人に責任がある」「粉飾決算を見逃した監査法人にも責任がある」と結論づけた。つまり「A級戦犯」を認定したものだった。 調査の結果、法的責任は行平前会長や三木前社長だけでなく、他の役員についても実名で指摘した。 しかし、これは山一側に猛反発を受けて、公表はされなかったのだ。国広は悔しい思いを胸にしまい込んだ。 ========== ーーもう一つの「法的責任判定委員会の報告書」は公表されませんでした。しかし、朝日新聞が独自に入手して記事にしました。そのときに国広さんが「情報をリークした」と疑われたとお聞きしましたが。
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