「そんなことまで頼んでない」闇に葬られた山一証券もう一つの「報告書」 朝日新聞の記事で「情報リーク」を疑われた“マチベン”弁護士が真相を語るー平成事件史(19)戦後最大の経営破たん【インタビュー】
ーー山一証券の「社内調査委員会」のあと、企業の不祥事のたびに「第三者委員会」が設置されるようになりましたが、経営者の「免罪符」「弁解」に利用されるケースも後を絶たず、批判もありました。これはどう受け止められましたか。 国広弁護士: 山一証券の「社内調査委員会」が原型となって、企業不祥事のたびに「第三者委員会」が設置されましたが、そうなると玉石混交で、その体をなしていないケースも出てきました。 社長が依頼し、立派な肩書の「先生」たちを調査委員に並べた、その場しのぎのお手盛りの「不良第三者委員会」の事例が続発しました。 こうなると「第三者委員会」自体の信用を損ねることになりかねません。そこで有志の弁護士が集まって、本来の姿に戻そうと、2011年に日弁連の「第三者委員会ガイドライン」を作ったんです。そこにはこう明記しました。 「第三者委員会はすべてのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業の信頼と持続可能性を回復することを目的とする」 「第三者委員会は、調査により判明した事実とその評価を、企業の経営陣に不利となる場合であっても、調査報告書に記載する」 これは山一証券の「法的判定委員会」でねじ伏せられた経験があったからです。 「企業は社長のもちもの」ではないんです。「第三者委員会」にかかる費用は、社長のポケットマネーではなく、株主のお金であり、従業員が一生懸命働いたお金であり、顧客が商品を買ってくれたお金なんです。ですから、社長が意のままの報告書を求めるのは筋違いです。しかし、形式上、「第三者委員会」は社長から委任されるため、報告書は、社長の意思に反するものにはなり得ないというのがそれまでの弁護士会の常識でした。 しかし、ガイドラインをつくったことによって、委任契約の際に「日弁連のガイドラインに準拠する」と書けば、必然的に経営陣にとって不利な事実や、組織的要因も調査できることになります。つまり、ガイドラインによって「説明責任」と「公表」がワンセットの経営陣に対する「盾」になったと思うんです。 社長が「公表しません」と言っても「第三者委員会」が独自に公表できるわけです。最低限こうした要件を満たした仕組みがないと「第三者委員会」を名乗ってはいけませんということです。 不祥事調査は、「外科手術」をやって悪い部分を摘出して、健康体に戻すためのプロセスですから、その手術を自分でこっそりやったのでは駄目で、中立、公平な第三者による「公開外科手術」が必要なんです。
【関連記事】
- 「大蔵省の責任を書かないという選択肢はなかった」山一証券社長は大蔵省から含み損の「飛ばし」を示唆された…“ミンボー専門”の42歳の弁護士が「調査報告書」に込めた思いとはー平成事件史(18)戦後最大の経営破たん
- 「山一証券破たんの調査をやってくれませんか」なぜ“ミンボー専門”のマチベンだった42歳の弁護士が、前例のない調査を引き受けたのか 今だから明かせる「報告書」をめぐる舞台裏ー平成事件史(17)戦後最大の経営破たん
- 「もう一度、東京地検特捜部で仕事がしたかった」がん闘病の妻を見舞うため病院に通う特捜検事 「ヤメ検」若狭勝弁護士の知られざる日々ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(16)
- なぜ警視庁幹部はワイロを受け取っていたのか、見返りは・・・小池隆一事件の「ブツ読み」から浮上した前代未聞の警官汚職ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(15)
- なぜ警視庁幹部はワイロを受け取っていたのか、見返りは・・・小池隆一事件の「ブツ読み」から浮上した前代未聞の警官汚職ー平成事件史 戦後最大の総会屋事件(15)