夫との死別、10年の空白を経て――「葛藤をさらけ出して進む」Awichの覚悟
アメリカで知った貧困。夢と希望を見失った
妊娠が分かった時は複雑な気持ちになった。 「これでいいとも思えたし、本当にいいのか、みたいな。妊娠すると女の人生終わるみたいな風潮は、まだその時あった。音楽活動している人にとっては致命的だろうと。もうキャリアは終わったと思っていいだろうなって」 「彼はあんまり深く考えてなかったと思う。それまでに子どもが何人もいて、そのお母さんは3人ぐらい違う女性なんですけど、結婚したことはなくて。でも、(私とは)ちゃんと結婚するから、と言っていました」 結婚と出産を決めたが、妊娠5カ月の時に夫が逮捕される。 「銃刀法違反と、子どもの養育費を払ってないということで。(保護観察官に)みんなでちゃんとするから出してください、と電話でお願いしたり手紙を書いたりしました」 出所して3日後、娘が誕生。産後は義母の住むインディアナポリスへ。アトランタで大学を卒業していたが、インディアナポリス大学に進学した。 「音楽もやってないし、学校に行かないと、世間とのつながりがどんどんなくなっていく。私って、いるのかいないのか分からない。娘は生きがいだったけど、何かしてないとノイローゼになると思った。学校に行かせてくれと言って、保育園を探して。彼も学校の清掃員として働くという約束で、生活が始まりました」
しかし、にっちもさっちもいかなくなった。 「アメリカの本性を見たというか。彼の人生も、親のジェネレーションから引き継いでいるカルマが根強くあった。親や親戚が中毒者だったり、貧困の中に生きていたり。はい上がるのって本当に難しい。一握りの人がそれを成し遂げて作ったヒップホップとか音楽が、私たちに届いてる。アメリカの貧困は終わりがなくて、飢えてるし、夢とか希望とか持ってる場合じゃない。現実として体験しましたね。のみ込まれて、夢も希望も捨ててたし。これが私の憧れてたアメリカなんですね、なめてました、という感じでした」