住人の姿消えた輪島市西保地区、豪雨で孤立状態続く…未だ残る爪痕見て「これはどうしようもねえわ」
能登半島地震で一時孤立した石川県輪島市西保地区は、9月の豪雨で幹線道路の県道38号(輪島浦上線)が通行止めとなり、再び孤立状態が続いている。県は年内にも一部ルートを応急復旧し、豪雨前の状態まで戻す方針だが、冬の積雪でまた閉ざされる可能性もある。20日、赤崎集落の中谷内稔区長(72)に同行し、住人の姿が消えた地区を歩いた。(高倉正樹)
どこまで行っても、鳥の鳴き声と波の音しかしない。民家に流れ込んだ泥は固く渇き、慌てて避難したせいだろう、洗濯物が物干し竿(ざお)にかかったままだった。
上大沢集落の西二又川は、濁流で両岸が大きくえぐれ、家が何軒か流された跡があった。「これはどうしようもねえわ」と中谷内さんが絶句する。車で入れないため、2か月たっても、重機の音も人の気配すらもない。不気味な静寂だった。
西保地区には小池、下山、赤崎、大沢、上大沢、西二又、上山の7集落がある。輪島市中心部から赤崎までは、中谷内さんの軽トラックで40分。ガードレールのないカーブだらけの険しい山道が唯一のルートだ。
辛うじて車で行けたのは赤崎の隣の大沢まで。「徒歩で行けるところまで行ってみましょう」と言われて車を降り、健脚の中谷内さんの後を追う。上大沢から西二又、さらに上山へ。倒木や土砂崩落が激しすぎて、どこに県道があったのか判然としない。西二又集落の中心部につながる橋も流木に埋もれて渡れなかった。
男女(なめ)滝の手前あたりで、ようやく重機の音がした。南の浦上地区側から道路復旧を進めている工事車両だった。往復2時間あまり、7キロほど歩いただけだが、孤立した集落に残る被害の爪痕は想像以上だった。
輪島市によると、11月1日時点の西保地区の人口は213世帯407人。豪雨被害で一部をのぞき電気や水道は通っておらず、ほぼ全員が地区外に避難している。自宅に戻れない世帯は市内でほかにもあるが、これだけまとまっているのは西保地区だけだという。