「2024年は観測史上最も暑い年」に驚かないのは心理的なトリックのせいだった
気候対策の妨げに?
曽我氏は、基準推移症候群が気候変動への対策を妨げているのではないかと懸念している。 もし人々が考える「手つかず」の環境というものが時を経るごとに劣化していくと、大胆な環境保護政策への支持が減り、政策立案者が高い目標を設定しなくなる恐れがある。また、自分たちでできることをしようという人々の意欲も損なわれるかもしれない。 「環境の劣化を強く感じている人は行動を起こす傾向があるということは、研究で示されています」と、曽我氏は指摘する。 しかし、米カリフォルニア大学サンディエゴ校の気候心理学・行動研究室を率いるアダム・アロン氏は、必ずしもそうとは限らないと言う。氏によれば、危機が起こっていることに多くの人が気付いている地域でも、人々が必ずしも行動を起こしているわけではなく、地元選出の議員に対する要求も特に高いわけではないのだという。 人々に気候変動への考え方を変えてもらい、行動も変えてもらいたいなら、分析に頼らないアプローチが必要だとアロン氏は考えている。 「つまり、社会規範を使うのです。『まわりの人たち、私の妻、夫、近所の人々は行動を起こしている。どの家も太陽光パネルを設置し、住宅をオール電化にしている。私もそうしよう』というように」
文=Maddie Stone/訳=荒井ハンナ