「2024年は観測史上最も暑い年」に驚かないのは心理的なトリックのせいだった
世代間ギャップ
基準推移症候群という概念は、1990年代に漁業に関連して初めて使われるようになった。当時、年齢が上の漁業従事者たちが魚の激減を懸念していた一方で、若い世代は現状を普通だと感じていることに、研究者たちは気付いた。 それ以来、生物多様性や自然資源の豊かさなどさまざまな点で、若い世代の方が上の世代よりも環境への期待値が低い傾向にあるという証拠がいくつも示されてきた。 「基本的に、基準推移症候群はどの環境問題でも起こります」と、曽我氏は言う。 気候変動も同様だ。2024年8月23日付で学術誌「BioScience」に発表されたレビュー論文で、曽我氏らは環境の基準が世代間でどのように推移しているかを73の研究に基づいて分析した。すると「多くの研究」が、緩やかな気候の変化に人々はなかなか気付けないことを示していたという。 「若い人々は、上の世代に比べて、降雨量の増加や気温の上昇といった気象パターンの変化に気付きにくいのです」 これらの研究のほとんどは低所得国で実施され、その多くが農業従事者に焦点を当てていた。曽我氏は、気候変動の直接的な影響をあまり受けない高所得国に住む人々の方が、基準推移症候群の影響をより受けやすいのではないかと考えている。 気候の基準が世代間で変わることがあるという証拠は十分に出そろっている一方で、人は生きている間に正常だと思う基準をどのくらい動かしてしまうのかは明らかになっていない。 ツイッター(現X)で気象関連の投稿を分析し、2019年に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された研究では、極端な暑さや寒さが数年続くと、ユーザーがそうした異常気象を極端だと感じなくなることが示唆された。 その一方で、あまりの暑さに人々が不安を抱き始めているという研究もある。学術誌「Global Environmental Change」の2021年5月号に発表された論文は、自分が経験している暑く乾燥した天候と気候変動の間に何らかの関連性があると感じる米国人が増えていることを示している。 「私たちの研究に基づいて言えば、人々は自分が住んでいるところの気象が変わってきていることに、十分な時間そこに住んでいれば気付きます」と、米ジョージメイソン大学気候変動コミュニケーションセンター所長のエドワード・メイバック氏は話す。