身近な自然がいつの間にか外来種に置き変わる 日本の外来生物対策最前線
経済のグローバル化が進み、人とものの国際的移動が活発化するなか、侵略的外来生物による生物多様性に対する脅威は、日を追うごとに深刻になっているとされます。我が国も明治維新の開国を皮切りに、外来生物の種数と個体群が急増し、身近な自然のほとんどがいつの間にか外来生物に置き換わった状態が広がっています。 外来生物による生態系侵略の進行は、生物多様性を構成する生物・生態系の地域固有性を破壊し、地球規模の生物多様性均一化を招くことなり、最終的に生態系機能の劣化につながるのではないかと懸念されています。
環境省外来生物法
環境省は、国として外来生物を管理するために、2005年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」、通称、外来生物法を施行しました。 この法律では、「国外から持ち込まれる外来生物」に対して、国がリスク評価を行い、生態系あるいは人間社会に対して有害と判定された外来生物を「特定外来生物」に指定して、輸入・飼育・販売・移送および野外への放逐を禁止します。 また、すでに定着を果たしている特定外来生物については、国および自治体が駆除する責任を負うと定められています。 現在(2017年4月)までに、132種類の外来生物が特定外来生物に指定されており、オオクチバスやマングース、アライグマなど一部の特定外来生物については国の事業として防除が進められています。
外来生物防除事業の困難
一方、限られた地域で侵入が確認されている特定外来生物集団については、地方自治体に防除が任されるケースがほとんどで、地方の間で、財政的負担に開きがあります。 さらに、防除に係る技術や材料など、具体的な指針が国からほとんど示されて来なかったため、自治体ごとに手探りで防除を開始しなくてはならない状況が続いていました。その結果、防除がうまく進まず、特定外来生物の根絶に成功したというケースはまだ極めて少ない状況にあります。 防除が上手くいかない要因としてはまず予算が十分に確保されていないことが挙げられます。外来生物法に係る年間予算は現在約4億円で、国全体の防除費用として圧倒的に不足しています。さらに本予算の大部分は、沖縄・奄美のマングース防除事業に投下されており、その他の外来生物防除事業のほとんどは、地方財政に負担が強いられています。 加えて、多くの自治体では、専門的知識をもつ担当官が不足しており、即時対応が困難な状態にあります。さらに、中央・地方とも、環境・農水・国交など行政部門のセクトの壁が高く、省庁間・部局間の連携がうまくとれないことも問題とされます。 また、防除技術の研究開発の遅れも要因のひとつにあげられます。日本国内でもっとも外来生物の研究事例の多い生態学会でも、外来生物の生態や進化にかかる報告数が目立ち、応用的技術開発の研究事例は多くはありません。 防除の成功事例・失敗事例の科学的分析を行う研究分野や学術誌が現時点で存在していないことも「科学的防除」の遅れにつながっていると考えられます。 何より外来生物対策の究極目的である生物多様性保全の意義が十分に社会に浸透しているとは言えないことが、防除が進まない根本的要因と考えられます。 そしてグローバル経済が進行する現代において、人とものの国際移送は加速を続けており、外来生物の侵入を食い止めることがいっそう困難なものとなっています。 こうした状況は日本に限ったことではなく、世界各国において外来生物対策は、それぞれの社会的・経済的背景のなか、困難な課題となっています。