身近な自然がいつの間にか外来種に置き変わる 日本の外来生物対策最前線
革新的防除技術の開発
上記のように既存技術を駆使して計画的に防除することで成功に近づいている事例の一方で、通常の防除方法では歯が立たないほど増えてしまった外来生物には、新規な防除手法の開発が求められます。 アライグマはすでに日本全国に分布が拡大し、防除が極めて困難な状況にありますが、これまで発生地域において箱罠と言われる餌で誘引する罠での捕獲か、直接、網などで捕獲するといった対症療法的防除の手法しかありませんでしたが、捕獲効率は決して高くなく、個体群密度の低下にはなかなか結びついて来ませんでした。
そこで北海道大学の研究チームが、餌で誘引するのではなく、アライグマの行動特性を活かした、「住みたくなる」巣箱型罠を開発しました。アライグマは樹木の洞(ほら)のようなやや高い位置にある空洞を巣穴として好む性質があることから、そうした洞の空間配置・構造を模した巣箱をつくり、アライグマがこの巣箱の入り口から入り込むと蓋が閉じて、捕獲されたことが電話回線で自動的に事業者に知らされるというシステムが作られました。現在この「巣箱型罠」は大分県での防除活動に活用されており、大きな成果を挙げつつあります。 農業用の花粉媒介昆虫としてヨーロッパから導入されたセイヨウオオマルハナバチは、北海道を中心に野生化が進行し、在来マルハナバチに対して悪影響を及ぼしていることが問題となり、特定外来生物に指定されました。2007年から野生化個体群の防除が北海道庁を主体として捕虫網による捕獲作業が展開されていますが、繁殖率が高すぎて、防除努力もむなしく、その分布域は拡大の一途を辿っています。そこで国立環境研究所では、特殊な薬剤を働きバチに持ち帰らせて、巣の中の幼虫たちの成長をとめることで、次世代の生産を阻害して営巣数を減らしていくという化学的防除手法の開発を進めています。 根絶まであと一歩というステージまできているマングース防除については、低密度化に伴う罠の捕獲効率の低下と予算継続の難しさの狭間に立たされつつあります。そこで「最後のとどめ」を刺す技術として、すでに海外でも活用されている殺鼠剤などの薬剤入りの餌を分布域に投与する手法検討されています。 当然、毒性のある薬剤を野外に投下することになるので、その使用に際しては、如何に非標的動物に対して薬害を低減させながら、効率的にマングースに投与するかという手法の開発が求められます。今年度から、局所的な分布に追い込まれたマングース個体群を対象として、薬剤の生態リスクや環境中動態に配慮しながら、この化学的防除の適用が奄美大島で試行されることになっています。
おわりに
外来生物の防除は、実際のところお金と労力さえ無尽蔵にかけられれば、どの種でも根絶させることは不可能ではないと考えられます。しかし、実際には、予算も人員も限られており、この限られた資材で最大限の防除効果を得る必要があります。 そのためにも新しい効果的防除技術の開発を進めていくとともに、外来生物対策に対する国民的な理解や協力が得られるよう、国や自治体、NPO、研究者などが連携して努力していく必要があります。 【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(五箇公一 国立研究開発法人 国立環境研究所 生態リスク評価・対策研究室室長)