「『復興』という言葉。何を指すのだろう?」 佐藤浩市さん、3.11原発事故描いた映画主演
Q:観た人にも考えてもらいたい、ということでしょうか?
【若松】 そうですね。そこが一番重要です。僕らは、(福島県の)郡山で完成したばかりの映画の試写会をやりました。福島の人たちがこの映画をどのように捉えてくれるのか、すごく心配だったんです。(映像には)もちろん地震もあるし、津波もあるし、それをフラッシュバックする人もいるでしょうね。それが心の痛みを伴うだろうと思いながらも、最後まで観てもらった時に、「この映画を作ってくれてどうもありがとう」と言ってくれる人が結構いらっしゃったってことが救いでした。
Q:「まだ復興できていない」という言葉がありました。映画を作られる前と後で、「復興」に対する気持ちは変わりましたか?
【若松】 作っている最中はひたすらこの映画を作るんだ、完成させてこれを世に問うんだということですよね。復興というのは、福島に行ってみて初めて感じたんですけれど、人口やっぱり約1万6000人いた所(富岡町)に、さっき浩市さんが言ったように、学校も病院もみんな揃っているのに、1200人くらい(2020年2月1日現在で1205人)しか戻っていないと。この帰って来られないという、「壁」があるような気がするんですよね。この壁を取り払わないとまだ復興とは言えないでしょうね。そこは強く感じました。 【佐藤】 「復興」という言葉は非常に多面的過ぎちゃって、いったい何を指しているんだろうか。人が住める街にすることが復興なのか。それとも、震災、災害によって負った心の傷を癒せるように住環境を含めていろいろなことをちゃんとすることが復興なのか。ちょっと復興という言葉がよく分からなくてね。何をもって復興というのか。
ただ、監督がおっしゃったように福島の方々、被災された方々、被災された方々を友人や家族に持たれる方々にとって、やっぱり観るにはちょっとしんどいカットやシーンがいっぱいある。これを「なんでこんなもの見せるんだ」って思う人もいるかもしれない。それは当然、いるでしょう。 だけど、経験した人たちのためだけに僕らは映画を作っているわけではない。「こういう事実を聞いてはいるけど、知らないよ」、あるいは「ニュース映像では見たよ」っていう世代がこれから出てくるんですよ。そういう人たちにより分かりやすく伝えるために、そういうカットやシーンを入れている。(映画が)エンターテインメントだって言っちゃえばそれまでかもしれないけど、そうやって映画が成立した中で、次の世代に対してバトン(を受け渡すこと)ができる。 これを観たときにみんながどう思うか。そういうときに、経験した人も、経験していない人も、劇場なりでこの映画を観た後に、(街を)行きかう人々を見て、街の明かりを見たときに何か思うことがあれば、それは一つ確実に遺産として残る。それは復興とは違うかもしれないけど、何かそういうふうに形を少しだけ変えて自分たちが後世に伝えていかないと、人間として(今を生きて)いる意味がないんじゃないかなって、そういうふうに思いましたね。