エイズとデルタのメモワール(回顧録)~パームスプリングス(前編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】
連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第61話 G2P-Japanのコアメンバー、熊本大学のⅠを介して共同研究をする機会を得た、ミネソタ大学のルーベン・ハリス教授は、筆者のロールモデルのひとつにもなっている。彼との交流を通して、「世界と対等にやりあえる研究をする」という具体的なイメージが芽生えはじめた。 * * * ■カリフォルニア州、パームスプリングス エクアドルのキトから、アメリカ・カリフォルニア州のパームスプリングスというところに向かう。東京からキトに向かう便も深夜便だったが(58話)、キトを発つ便もやはり深夜便であった。キト、ヒューストン、サンフランシスコ、パームスプリングス。それぞれの飛行時間は大した長さではないが、3度の乗り継ぎを含め、トータル約20時間の長旅である。 カリフォルニアに来るのはなんと16年ぶりで、2007年に初めての海外出張でロサンゼルスを訪れて以来の訪問である(52話)。海外にはいろいろ出かけるようになったのに、アメリカもいろいろな都市を訪れていたのに、なぜかカリフォルニアに来る機会には恵まれなかった。 パームスプリングスへは、エイズウイルスに関する研究集会に参加するために訪問した。エイズウイルスの研究集会といえば、ニューヨーク州のコールドスプリングハーバー研究所で毎年5月開催されるものについて、この連載コラムでも紹介している(53話)。 パームスプリングスで開催されるこの研究集会も、毎年この時期に開催されているものだが、筆者が参加するのは今回が初めてである。ちなみに余談だが、54話で紹介した、エイズ根治に成功した世界初の患者である「ベルリン患者」ことティモシー・ブラウン(Timothy Brown)は、この地で闘病し、最期を遂げている(*)。 この研究集会には、私だけではなく、G2P-Japanのコアメンバーである熊本大学のⅠと、宮崎大学のSも参加していた。奇しくもこの年(2023年)の6月に欧州ツアー(40話)を組んだときと同じ顔が、パームスプリングスに揃うこととなった。