埼玉秩父の部品メーカーが「アプリ70超」内製開発、秘訣が「怖いお父さんはNG」の意味
DX成功の秘訣は「“怖いお父さん”にならないこと」
DXを成功に導くために最も大事にしていたことを尋ねると、松本氏は「怖いお父さんのようにならないことが一番大事だと思います」と答えた。 DXは通常の業務に加えて行われるため、厳しく指導すると、社員は「忙しいから後回しにしよう」「なぜ自分がやらなければならないのか」と感じ、不満を抱く可能性がある。そのため、松本氏は社員がどんなに小さな成果でも「100%褒める」ことを徹底した。 さらに松本氏は、DX推進にあたってガントチャートなどの厳密な計画はあえて立てなかったという。 「厳密な計画はノルマ化してしまい、社員たちに無意識のプレッシャーを与えてしまいます」(松本氏) その代わりにノートに色鉛筆を使って、柔軟であいまいな計画をあえて描くというアプローチを採用した。 このように社員の心理的安全性を確保することがDXにおいて重要なポイントのようだ。
DXで生まれた時間で「社員考案の商品づくり」
アプリ開発によるDXの効果は、業務効率化にとどまらず、社員の働き方にも大きな変革をもたらした。在宅勤務を行う社員は、これまでルーチンワークの業務に限られていたが、自宅でもアプリ開発が可能であるため、より付加価値の高い仕事に従事できるようになったという。 「特に小さな子どもを持つ女性社員は在宅勤務で限られた業務しかできず、自己肯定感が下がってしまうケースがありました。しかしアプリ開発が可能になり、付加価値の高い仕事を自宅でも行えるようになったことで、自己肯定感が高まり、働き方改革としても大きな成果を得ました」(松本氏) さらに製造部門の社員たちは、DXによって生まれた時間を活用し、顧客の要望に応じた製造業務だけでなく、自ら考案した商品の製造にも挑戦している。たとえば、お酒が好きな社員は“おちょこ”などを製作し、それをふるさと納税の返礼品として提供する計画を進めているという。 これらの取り組みは、単なる時間の有効活用にとどまらず、社員たちの創造力を引き出し、社内の雰囲気をより良いものにしているという副産物も生まれているのだ。