埼玉秩父の部品メーカーが「アプリ70超」内製開発、秘訣が「怖いお父さんはNG」の意味
松本興産は、地方の中小企業でありながら、DX推進で高い評価を受けている。社員の自主性を尊重したリスキリングやアプリ開発による業務改善を推進し、今では複数の賞を受賞するにまで成長を遂げた。特に、ローコードによるアプリの内製化では、計70超のアプリを開発し、業務時間は約3万時間から1万時間以内に削減、関連経費も4,190万円の削減を達成した。なぜ中小企業でもこれだけの成果を挙げられたのだろうか。今回、同社取締役の松本 めぐみ氏に、DXの取り組み内容や成功の秘訣について話を聞いた。
IT人材「不在」から始まったDX活動
松本興産はDXを積極的に推進し、その成果が次々と認められている。同社のDXの取り組みは、さまざまな大会で高く評価され、複数の賞を受賞した。 2024年2月、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会が主催する「JAPAN HR DX AWARDS FINAL」において、リスキリング部門で最優秀賞を受賞。同年6月には「日本DX大賞」のマネジメントトランスフォーメーション(MX)部門で優秀賞を受賞した。 松本興産のDXの取り組みは、全社員が参加して進められた点や、リスキリングに向けた効果的な動機付けの仕組みが評価され、地方の中小企業におけるDX推進の成功事例として注目された。 松本氏に受賞の感想を尋ねると、「優秀賞を受賞した時は、正直、喜びよりも悔しさが強かったです」と話す。「2度目の最優秀賞獲得に向けて、社員一丸となって万全な準備を進めていましたから」とのことである。 松本興産では、社員の多くが地元の高校出身で、高度なITスキルを持つ人材はいない。DXを行う前までは、製品検査の記録などを長らく紙ベースで行っていた程である。それでも多くの社員がデジタル技術を身に付け、数々の成果を挙げているのだ。
きっかけは営業利益の「赤字」転落
松本興産がDXに本格的に取り組み始めたきっかけは、コロナ禍で業績が悪化し、営業利益が2億5,000万円ほどの赤字に転じたことである。同社の主要製品である自動車部品は、コロナ禍の影響を大きく受け、自動車業界全体での景気回復の兆しが見えない状況に直面していた。 「長いトンネルが続くようで、コロナ禍は本当に怖かったです」(松本氏) こうした不安定な経済状況の中で、同社は従来のビジネスモデルを見直す必要性に迫られ、デジタル技術を活用した業務改善に乗り出す。具体的には、業務改善による経費削減を目指して、ローコードで開発可能なアプリの内製化に着手した(具体的な内容について後ほど紹介します)。 また外部からITの専門家を講師として招き、松本氏を含めたほとんどの社員たちが毎週行うオンラインでの対話を通して、リスキリングを展開。当初、「私も社員もITに不慣れでしたから、正直なところ戸惑いはありました」としつつも、「少しずつですが、アプリ開発のスキルも身に付けていくことができました」という。 2年にわたるサポートが終わるころには、多くの社員が自力でアプリを開発できるようになった。これ以降は、外部のサポートに頼ることなく、スキルを習得した社員たちが他の社員に教える形で、社内にデジタル人材が広がっていったという。