ゆっくり休むことが必要だが、「廃用症候群」の危険も…「高齢者のうつ」の治療の難しさ
日本は今、「人生100年」と言われる長寿国になりましたが、その百年間をずっと幸せに生きることは、必ずしも容易ではありません。特に人生の後半、長生きをすればするほど、さまざまな困難が待ち受けています。 【写真】「うつによる仮性認知症」と「本来の認知症」の見分け方 長生きとはすなわち老いることで、老いれば身体は弱り、能力は低下し、外見も衰えます。社会的にも経済的にも不遇になりがちで、病気の心配、介護の心配、さらには死の恐怖も迫ってきます。 そのため、最近ではうつ状態に陥る高齢者が増えており、せっかく長生きをしているのに、鬱々とした余生を送っている人が少なくありません。 実にもったいないことだと思います。 では、その状態を改善するには、どうすればいいのでしょうか。 医師・作家の久坂部羊さんが人生における「悩み」について解説します。 *本記事は、久坂部羊『人はどう悩むのか』(講談社現代新書)を抜粋、編集したものです。
うつの治療
うつの治療には大きく分けて、精神療法と薬物療法があります。 精神療法はいわゆるカウンセリングです。励まさない、否定しないが原則であるのは、一般にも知られているでしょう。「頑張れ」とか、「クヨクヨするな」「考えすぎるな」等を言わないことです。逆に、「もう頑張らなくてもいいよ」とか「ゆっくり休めばいい」と相手を許容し、「つらい」「苦しい」「惨めだ」などという言い分にも、「そうだね」と同意し、「迷惑をかけて申し訳ない」「生きている意味がない」「死んでしまいたい」などの言葉にも、「大丈夫」「心配しなくていい」「つらいんだね」など、優しく接することが肝要です。 これらの対応は甘やかしと紙一重で、逆にうつを長引かせるのではと危ぶむ人もいるでしょうが、うつに陥った人は精神的にヘトヘトになっていることを、周囲も理解する必要があります。 しかし、高齢者の場合は、ゆっくり休みすぎて身体を動かさない時間が長くなると、筋力が衰え、廃用症候群(使わないことによって機能が失われる状態)になる危険性もあるので、ようすを見ながら活動を促すことも必要になります。 廃用症候群を心配しすぎて早めに活動させると、また精神的に疲れる危険もあるので、家族や周囲にとっては痛しかゆしでしょう。何事も多くを望まないことが肝要です。 薬物療法は抗うつ剤で行います。うつのメカニズムには、脳内神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンが関わっていますから、これらの減少を防ぐため、再取り込み阻害剤などが使われます。 抗うつ剤がうまく効くと、心が落ち着き、不安が解消され、気分的に高揚して元気が出ます。どれくらい効くかは人によってちがいますし、また、薬漬けになる危険性もあるので、注意する必要があります。 抗うつ剤は本来的なうつ(特に原因もなく憂うつになる)に対する薬なので、反応性のうつ(いやなこと、つらいことがあって憂うつになる)にはあまり効きません。老化による衰えに悲哀を感じてうつになっている人は後者ですから、抗うつ剤の効果は限定的となります。若さを取りもどせれば、うつも解消するでしょうが、若返りの薬が発明されないかぎり、無理というものです。 さらに連載記事<じつは「65歳以上高齢者」の「6~7人に一人」が「うつ」になっているという「衝撃的な事実」>では、高齢者がうつになりやすい理由と、その症状について詳しく解説しています。
久坂部 羊(医師・作家)