「100件以上の名義変更も苦痛でしたが…」長年、他者の過干渉に苦しめられてきた女性が選択的夫婦別姓の導入を訴える本当の理由
〈“人生の壁”をのりこえた女たち〉8
女性の場合、結婚や出産、はたまた夫の転勤など、生活が突如一変してしまうことが多々ある。今回は初婚、再婚と2度の結婚で改姓による困難に直面した井田奈穂さんの経験談から、“人生の壁”をのりこえるヒントを探りたい。(前後編の後編) 【画像】「望まない改姓」は苦痛でしかないと語る井田奈穂さん
Twitter(現:X)に愚痴ツイート
井田さんは、まずは“愚痴ツイート”から始めた。 「再婚のとき、別姓の親権者として子どもたちを育てましたが、名字が違っても家族としては何ら支障はありませんでした。 ただその期間ずっと親として、例えば習い事の引き落とし口座や大学の学費の保証人など、100以上の名義変更手続きが必要で、精神的にも肉体的にも苦痛を感じました。 こうした自分の経験をTwitter(現:X)に投稿し始めたのが、夫が入院した後からでした」 Twitterで呟き続けていくうちに、「私も同じ経験をしました」という当事者が集まってきた。 そこで2018年末に、選択的夫婦別姓の法改正を求める当事者団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」事務局を立ち上げる。 当時住んでいた中野区の区議会議員に陳情に行き、区議会議員から国会に意見書を提出してもらった。
夫婦同姓は『家制度』の名残り
井田さんは「夫婦同性」について学びを深めると、目から鱗の連続だった。 「古来、日本だけでなく、東アジアには結婚改姓の文化はありませんでした。しかし『家制度』制定と同時期に、ドイツから輸入したのが夫婦同姓だといわれています。 家の統率者に嫁いだ女性は改姓し、その家の戸籍に登録され、財産権も子の親権も、離婚を願い出る権利すら持てず、統率者家族の生活様式に従属することが強いられました。 『家制度』が廃止されて77年経ちますが、いまだに『結婚=女性が相手側の家に嫁ぐ=名字を変える』という図式を信じている人が少なくありません」 1947年に「家制度」は廃止され、結婚するときは親の戸籍からお互いが抜けて、1つの夫婦戸籍にする形式になった。憲法24条は「両性の平等」をうたっているが、「夫婦同姓」だけが残った。 厚生労働省による「人口動態統計」2022年調査によると、婚姻後に姓を変えるのは95%が女性。法務省「選択的夫婦別氏制度(選択的夫婦別姓制度)について」によると、「夫婦同姓」を義務付けている国は日本以外にない。 「生まれ持った性別によって、同じ選択肢を持って結婚に臨めないのは不平等だと思いませんか? しかも日本の場合は、法的に片側から名字を奪う構造が『女性が改姓するのが当たり前』という社会的圧力を生んでいます。 『愛する人の名字になることが私の幸せ』と思う人はそれを選択すればいい。でも、そうじゃない人もいます。 結婚制度に夫婦同姓の強制という不平等な縛りがある限り、望まない人まで個のアイデンティティを失うのです。 改姓する・しないすら自分で選べないなんて、ジェンダー平等と基本的人権の尊重に反していると思います」