残念…観望が期待された紫金山・アトラス彗星、「崩壊中」と米研究者
太陽接近時に特に照らされ、条件がよければ夜に地上で観察できる。地球の自転によって見かけ上、周囲の星々と共にゆっくり移動。また彗星自体の移動によって日を追って、星空の中で見える位置が変化していく。一方、同じ小天体でも、ガスや塵を出していないのが小惑星だ。
国内で一般の人が広く、悪天候にも邪魔されず楽しめた直近の肉眼彗星は、1997年の「ヘール・ボップ彗星」という。それ以降は四半世紀あまり、北半球で肉眼で見えた彗星は極めて少ない。例えば2007年に「ホームズ彗星」が見られたものの、明るくなったのが急で、また地球からの角度の問題で尾が見えなかった。2013年に「アイソン彗星」に期待が集まったが、多くの人が肉眼で楽しむ前、太陽への最接近時に崩壊した。2020年の「ネオワイズ彗星」は全国的に悪天候と重なり、見られた人はごく少なかった。そんな中で、紫金山・アトラス彗星はまさに“期待の星”だったのだ。
なお彗星は、流星(流れ星)とは全く異なる。流星は宇宙空間の塵が地球の大気圏に突入して燃え尽きる際、成分が光って一瞬、夜空に筋を描く現象。彗星が軌道に多くの塵を帯状に残しており、地球が毎年そこにさしかかる際にこの塵が大気に次々飛び込むと、流星が多発する「流星群」が起こる。流星群の時期は決まっているが、個々の流星の発生時刻や位置は予測できない。ただ彗星と流星は、条件が良ければ肉眼で十分に楽しめ、見応えがある点で共通しているともいえる。
筆者は1996年、「百武(ひゃくたけ)彗星」を東京・高尾山で見上げた。その日はあいにくの雨で、湿気のせいでぼんやりしていたが、優美な姿に感動。いずれまた好天の下で…と誓ったものの、それから彗星を拝めていない。仮に今後、新発見の肉眼彗星が出現しないとすると、次に確実なのは37年後、2061年のハレー彗星なのだとか。紫金山・アトラス彗星は自ら崩壊することで、天文ファンに長寿という目標を与えてくれるのかもしれない。 草下健夫/サイエンスポータル編集部