残念…観望が期待された紫金山・アトラス彗星、「崩壊中」と米研究者
今秋に肉眼で観望できるとの期待が高かった「紫金山・アトラス彗星(すいせい)」が、既に崩壊しつつあると米天文学者が報告した。査読前論文によると、3月下旬から顕著に断片化するなどしており、太陽に最接近する前に崩壊するという。夜空に尾を描き美しく見応えがある彗星は、天体ショーの花形。国内で十分楽しめる“肉眼彗星”は長らくご無沙汰であるだけに、楽しみにしてきた人々の落胆は大きい。
太陽系の果てから、期待高めつつ接近
紫金山・アトラス彗星は昨年1月、中国科学院紫金山天文台がまず発見した。いったん行方不明となり、翌月に小惑星地球衝突最終警報システム「ATLAS(アトラス)」が再発見した。識別のための符号はC/2023 A3。紫金山は「しきんざん」とも、中国語に沿って「ツチンシャン」とも読まれる。故郷は太陽系のはるか遠く、小さな天体が無数に分布して太陽を球殻状に囲う領域「オールトの雲」。楕円軌道で76年周期の「ハレー彗星」などとは違い、放物線軌道を持つため、地球に近づくのは一度きりだ。
軌道が判明し、今年9月27日に太陽にわずか0.39天文単位(1天文単位は太陽と地球の間の距離で、約1億5000万キロ)、10月12日には地球に0.47天文単位まで近づくなどと分かると、非常に明るく、天体望遠鏡がなくても肉眼で見えるようになるとの期待が高まった。ただ彗星の見え方の予想は難しく、研究者や天文ファンらが、推移を固唾(かたず)をのんで見守ってきた。各地の科学館や光学機器メーカー、メディアなども期待を込め、それぞれに企画を進めてきたようだ。筆者も、昨年末の記事で「来年は何といっても…」と紹介し、この夏休みには読み物の執筆を心積もっていた。
「ヤバそう」うわさの中、第一人者から“決定打”
観測データの分析から新たに予測を報告したのは、米天文学者のズデネク・セカニナ氏。公開された査読前論文(今月9日版)は「紫金山・アトラス彗星の避けられぬ終局」と、タイトルからして悲観を前面に出したものだ。「この論文の目的は、肉眼で見えることを楽しみにしている観測者を失望させることではなく、期待を裏付けるようにみえないという科学的議論を提示することだ」と断りつつ、「太陽最接近前の崩壊の予測は非常にリスクが高いが、今こそそれを実行する時だ」と、自信をみせている。