残念…観望が期待された紫金山・アトラス彗星、「崩壊中」と米研究者
セカニナ氏は予測の根拠として、具体的にまず、彗星の明るさの変化を挙げた。太陽からの距離が3.3~3天文単位だった今年3月21日~4月15日にかけ、急激に増光しているが、これは彗星の本体「核」が激しく分裂したためとみられる。それ以降も部分的な分裂が起きているという。このほか、分裂が進んで噴き出す塵(ちり)が既に少なくなったこと、軌道が変化していることなどを説明。「太陽に最接近する前に崩壊する」と予想している。
彗星などの小天体に詳しい、国立天文台の渡部潤一上席教授は「実は観測者などの間で『距離が近づいているのに(核を球状に覆うガスである)緑色のコマが見えてこない』『明るさが減っている』と、うわさにはなっていた。ヤバそうだね、と話していたところ、彗星研究の第一人者であるセカニナ氏の論文が出たのが決定打となった。崩壊すると断言まではしにくいのだが、彼が言うのならと、世界中の人が諦めていると思う。生き残ったとしても肉眼で見るのは難しそうだ」と残念がる。
渡部氏によると分裂が進んだのは、太陽に近づいたことによる熱が主な原因。加えて、核が小さいため元々、水などの揮発成分が少なく、それらが蒸発して枯渇してしまったとも考えられるという。水より揮発性の高い一酸化炭素や二酸化炭素などが早くから蒸発したせいで、まだ彗星が遠くにあるうちの観測により、明るい彗星になると“過大評価”されていた可能性もある。
待たれる、次の肉眼彗星は…
彗星は太陽系の小天体の一種。太陽に近づくと熱を受け、塵を含んだ氷の塊である核が徐々に解けてガスや塵が出て、コマや尾を形成する。見かけの特徴から箒(ほうき)星とも呼ばれる。核の直径は数キロから数十キロ。尾は2種類に分かれている。ガスが太陽の紫外線などでイオン化し、太陽からの陽子や電子の流れである太陽風に吹かれて青白い「イオン(プラズマ)の尾」となる。また、塵が太陽光の圧力で流されて黄色い「塵(ダスト)の尾」になる。いずれの尾も進行方向と関係なく、太陽の反対側に延びる。