ベストセラー書籍『ユニクロ』が紐解く、地方商店街の紳士服店だったユニクロが強烈に成長し続ける理由
■ 「一緒に降格してくれ」と言われたかつての右腕 杉本:失敗することを半ば前提にしつつ、新しい挑戦をしているという印象があります。もちろん、失敗しないように、可能な限りいろんなことを計画して臨むのですが、それでも、失敗はついて回る。だけど、失敗を成功するための経験に変える。これこそがユニクロの歴史だと思います。 ──ユニクロのビジネスと成長を考える上で欠かすことのできない、柳井さんの周りのキーパーソンたちについても詳細に書かれています。どなたが印象的でしたか? 杉本:1人だけを特定するのは難しいですね。時代ごとに、柳井さんの右腕は変わってきました。 ──その時代ごとの柳井さんの右腕にあたる人が、自分の時代が終わったことに気づいて去っていく瞬間を丹念に描かれています。なんとも切ない厳しさを感じました。 杉本:この本では、大きく2世代の方々の入れ替えを取り上げました。最初の世代は、商店街から柳井さんと一緒にやってきた古参幹部の浦利治さんと岩村清美さんです。岩村さんは、柳井さんが社内の回覧資料に書いた「泳げない者は沈めばいい」という言葉を見て、ユニクロをやめることを決めます。 柳井さんはこの文言をしばしば使っていたのですが、岩村さんは、その言葉を見た時に「自分は泳げない者なのだ」と感じてしまった。そう私の取材でおっしゃっていました。「身を引かなければならない」と考えてしまったということです。 浦さんと岩村さんが、自分の役割は終わったという気持ちを柳井さんに伝えたら、「僕もそう思います」と柳井さんは答えたそうです。強烈ですが、ある意味、とても柳井さんらしい。思っていることをストレートに口にする人ですから。 とはいえ、実際にこのお二人が退社される時には、感謝状を手渡して、みんなの前で花火を打ち上げて、卒業のセレモニーをされています。 第二世代にあたる澤田貴司さんと玉塚元一さんが去っていく場面も書きました。 玉塚さんは今ロッテホールディングスの社長をされています。玉塚さんは、ユニクロの大ヒット商品だったフリースのブームが終わり、売り上げが下がったところに立て直しを図っていた。ユニクロがどん底の時に社長になり、3年かけてフリースブームの頃の規模にまで売り上げを戻しました。 売り上げを地道にちゃんと戻している道半ばに、柳井さんから降格を言い渡された。当時、玉塚さんが社長で柳井さんが会長だったのですが、「一緒に降格してくれ」と言われたそうです。つまり、柳井さんが社長になり、玉塚さんは役員になるということです。キツいですよねぇ。せっかく辛い時期に必死で売り上げを戻してきているのに、そのやり方ではダメだと言われた。 柳井さんはこの時の決断を振り返って「ユニクロを普通の会社にしてほしくなかった」と言っています。玉塚さんは退任し、柳井さんが社長になり、「もう一回世界で戦う」と海外戦略を打ち出していきます。結局、あの時と比べて今ユニクロの売上高が10倍くらいに膨れ上がっていることを考えると、柳井さんの追い求めているものの大きさが伝わってきます。 長野光(ながの・ひかる) ビデオジャーナリスト 高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。
長野 光