苦痛に悶えながらも安楽死に反対――難病ALS患者が命を懸けた訴え、生きたいと思える社会を目指して
安楽死制度は「私の死を願っているのか」
2024年2月、岡部さんは千葉県の高校で行なわれた特別授業「生きるって何だろう」で、ALSを患う佐藤裕美さん(53)とともに講師として教壇に立った。佐藤さんは岡部さんから生きる力をもらった1人だ。 「安楽死を認めるべきだ」との声が上がる度に、その脅威を肌で感じ、生きづらさを感じていたという佐藤さん。 「安楽に死ねる制度があるのに、あえて使わなかったのだから『使わなかったあなたは苦労して生きることを受け入れなさいよ』と思われてしまいそう。世の中が自分たちの死を願っているような気がするのを強く感じてしまいました」 しかし、岡部さんに「生きているだけで価値がある」と励まされ、自身も前に出てその活動を手伝うようになった。生徒の前で自信をもって、こう語りかけた。 「誰もがその人らしく、無理やり変えられることのないまま、どこまでも幸せを求める世の中になってほしいなと思っています。あなたの生きる、ここにいる一人ひとりの生きるも、かけがえのないとても大事な一つの生きる形だと思います」
「生きることを選んでほしい」命を懸けた訴え
同じ難病に苦しむ患者や、そうでない人々へも「生きること」を励まし続けてきた岡部さん。 「誰かに生きてほしいと思われていること、誰かに生きてほしいと思うことで私たちは生きる力や希望を持てるのだと思います。この気持ちを失ったら、この社会はもっと悲惨な出来事が増えるでしょう」 「1日のうち4割の時間は死にたい」と思うことさえある岡部さんだが、「安楽死を選ぶのではなく、生きることを選んでほしい」と訴える。 「私も安楽死を具体的に検討したこともあるし、つい去年も体の辛さで死にたいと思ったことがあります。私たちに限りませんが、人は死にたいなと思うこともあります。安楽死で死んでいけるような社会を目指すなら、希望をもてる社会ではありません」
2024年夏に体調を崩して入院した岡部さんは10月に退院し、自宅で療養を続けている。快方に向かっているが、現在、意思表示ができない状態にある。 12月、私は岡部さんのもとを訪ねた。入院してから会うのは初めてだったが、元気そうな表情を見てホッとした。以前と変わらぬ圧倒的な存在感のままである。私はその手をとり、これまで通りに話しかけた。 「岡部さん、ゆっくり休んでから、またいっぱいお話しましょうね。全国の皆さんが待ってますよ」 岡部さんは今も、命を懸けて訴え続けている。