廃業が相次ぐ旅館業界...最高売上を更新する温泉宿が「あえて効率化しない」理由
日本ブランドの一つとして「旅館」が世界で認識されるように
また、コロナ禍の際には「仲居の完全担当制」と「食事の部屋出し」が思わぬ効果を発揮しました。お客様に対応するのは仲居一人だけ、食事は自分たちの部屋で食べていただくので、他のお客様と顔を合わすことがないため、コロナリスクの低い宿としてお客様に選ばれることになったのです。 リピーターのお客様の中には、今は旅館が大変な時期だろうから、浜の湯に泊まりに行って助けてあげようという思いで来ていただいた方も多くいました。そのため、コロナ禍の初年度は、2か月半の全館休業が終わってからすぐに多くのお客様に来ていただき、1億円以上の利益を出したほど。Go To トラベルが始まった頃には、創業以来の最高売り上げを毎月更新していました。 仲居の完全担当制は仲居の人数が多く必要なので人件費がかかり、人材の採用にも教育にも手間と時間がかかります。また食事の部屋出しについても、お客様のお食事の進み具合を仲居が見ながら、冷たい料理は冷たいまま、温かい料理は温かいままお出しするので、かなりの手間がかかります。 それでもなぜ私が「仲居の完全担当制」と「食事の部屋出し」にこだわるのかというと、これが旅館の文化だからです。浜の湯は、日本旅館の古き良き伝統を守り継ぎ、現代のニーズにも応えられる旅館として成長してきたからこそ、リピーターのお客様に支持されているのだと確信しています。 今後、日本の人口が減少していくなかで旅館が存続していくためには、インバウンドの力を借りる以外に方法がなくなることが予想されます。そうなった時のためにも、日本の一つのブランドとして「旅館」が世界の人たちに認識されるようになることが必要です。 そのためにも、旅館の「仲居の完全担当制」や「食事の部屋出し」を古き良き伝統として、世界の人たちにアピールしていく必要がある。そして、日本旅館ならではのおもてなしが、世界に誇る旅館ブランド構築の重要なカギになると私は考えています。
【鈴木良成 (すずき・よしなり)】 1964年生まれ。釣り宿「浜の湯」の長男として生まれ、大学卒業後2年間、山形県の旅館で修業を積み家業に加わる。2008年、社長就任。現在は、観光サービス専門学校の講師も務めている。 食べるお宿 浜の湯HP: https://www.izu-hamanoyu.co.jp/
鈴木良成(株式会社ホテルはまのゆ代表取締役)