廃業が相次ぐ旅館業界...最高売上を更新する温泉宿が「あえて効率化しない」理由
「仲居の完全担当制」こそが旅館の原点
旅館はお客様のリピート率が高くなければ、安定した高稼働率は維持できません。リピートしていただくためには、他の数多くの旅館と比べられたうえで「あそこにまた行きたい」と選んでいただかないといけません。ところが、上で述べたように、どこも団体向けに効率化・合理化を進めていったために、個人のお客様に何度も選んでいただけるような旅館作りができていないのです。 私が経営する「浜の湯」は、前面に海が広がる絶景と、「食べるお宿」の名のとおり、伊豆の海の幸をふんだんに使った料理が目玉ですが、それ以上にこだわっているものがあります。それは、一人の仲居がお客様をお出迎えしてからお見送りするまで寄り添う「仲居の完全担当制」です。 一般的なホテルや旅館では、玄関先でドアマンがお客様を出迎え、チェックインはフロントマンが行います。お部屋へ案内するのはベルマンで、お食事はレストランスタッフが対応します。このように、お客様は滞在中、数多くのスタッフと関わり合いを持つことになります。 しかし浜の湯では、お出迎えからチェックイン、部屋へのご案内、夕食・朝食の料理の部屋出し、寝具の準備、そして翌日の朝食からチェックアウト、お見送りまで、そのすべてを仲居一人が担当するのです。 それによりお客様は、それだけ長時間にわたって寄り添うように接客をしてくれる仲居さんに全幅の信頼を寄せるようになり、またあの仲居に会いたいといって何度も足を運んでくださるようになる。私はそれが旅館の原点だと思っています。 そして浜の湯には、顧客カルテというものがあります。ここには、宿泊されたお客様とどういう話をしたか、どのようなご要望があったかといったことを、担当した仲居がこと細かに記入していきます。そのお客様がまた訪れてくれたら、1回目に担当した仲居が再び担当します。その際、仲居は事前に顧客カルテを見て、そのお客様に合わせた会話やサービスを行っていくのです。 例えば1年ぶりの来館であっても、「猫の◯◯ちゃんは、相変わらずかわいくしていますか?」と仲居が聞けば、お客様はそんなことまで覚えていてくれたことに感動して喜んでくれます。 リピーターとなってくださったお客様は、浜の湯に泊まれば泊まるほど、何も言わなくても自分好みのことを仲居がやってくれるようになるわけです。このようなパーソナルなサービスのご提供を続けていくと、時には最後にチェックアウトしてお見送りをする際、お客様が涙を流して仲居との別れを惜しむことがあるほどです。 それが、浜の湯のお客様の5割がリピーターという結果につながっているのです。