廃業が相次ぐ旅館業界...最高売上を更新する温泉宿が「あえて効率化しない」理由
コロナ禍で大きな打撃を受け、休廃業・解散が相次いでいる旅館業界。そんななか、伊豆稲取温泉「食べるお宿 浜の湯」は、リピーターが全宿泊客の5割を占め、コロナ禍の最中から毎年のように最高売り上げを更新しているといいます。その理由は、多くの旅館が業務効率化のためにやめてしまった「仲居の完全担当制」にあると、社長の鈴木良成さんは言います。
コロナ禍で団体客が来なくなり、旅館業界が苦境に
旅館業界にとっての大きな変化は、実はコロナ禍より30年近くも前、バブル崩壊の時にまず訪れました。バブルの頃にものすごい人数が泊まってくれていた社員旅行やグループ旅行といった団体客がパタリと来なくなり、宿泊客数が激減したのです。 そのため、それまで団体客だけを相手にしてきた多くの旅館は、個人客も取らなければやっていけなくなりました。しかし、完全に個人客化することにまでは踏み込めませんでした。というのも、旅館の稼働率がおぼつかない中で、わずかにあるグループ・団体客を受け入れていかないと、さらに経営状況が悪化してしまうからです。 そうしているうちに今度は日本がコロナ禍に見舞われました。外出や旅行に対して自粛ムードが広がり、団体客が全く来なくなってしまったため、全国すべての旅館が個人客だけを追い求めなければならない状況になりました。 しかし、それまでずっと中途半端に団体客も個人客も追っていたため、個人客に認められる旅館になろうと思っても、そのための仕組みや受け入れ体制をわずか数年で変えられるわけがありません。そのため多くの旅館は個人客をなかなか思うように集客できずにいます。そして、それに耐えきれなくなった旅館が廃業してしまっているわけです。
多くの旅館がサービスの合理化を進めたワケ
団体客ばかりを追いかけていた旅館が個人客を集客できない一番の原因は、業務の効率化です。昔のような売上高がないなか、わずかな売り上げで旅館を存続させていくためには、経費を節約して、少ない売り上げでも利益を出るようにしないといけません。 そのためには業務の効率化、合理化を図る必要がある。旅館業の経費で大きな割合を占めているのが食材費と人件費で、真っ先にそこにメスを入れることになります。 そうなると、料理の質は当然のごとく落ちます。スタッフが少なくなりますから、料理の部屋出しなど不可能で、食事はすべてのお客様を食堂に集めて食べていただくことになります。一品一品の料理についての事細かな説明をする時間的な余裕もありません。 仲居が料理の説明をしていればお客様はもっと美味しく味わえたはずなのに、そういったサービスがすべて省かれてしまい、それがサービスの質の低下につながっていく。そのため、どこの旅館に行っても似たような料理、似たようなサービスという状況に陥ってしまっているのです。