ヘビはなぜ怖いのか 認知科学者「ポイントはうろこ」 遠い祖先からの長~い関わり
ヘビを見た時の脳内メカニズム
恐怖や不安、怒り、悲しみなどのネガティブな感情をつかさどるのは、脳の奥深くにある「扁桃体」という部分です。 目から入った情報は視神経を通して脳に送られ、脳の表側にある「大脳皮質」の後ろにある「視覚野」と呼ばれる部分から順次処理され、何なのかを認識します。 ただ、急を要する「脅威」の情報には、大脳皮質を通さずに近道するルートがあり、視神経から「上丘(じょうきゅう)」、そして「視床枕(ししょうちん)」を通して扁桃体に伝わると考えられています。大脳皮質を経由せずに扁桃体に到達するので、情報処理が早くなります。 視床枕には、ヘビのうろこのような模様に反応する神経細胞があり、ヘビの写真を見た時に活発に反応することがわかっています。 川合教授は「同じ爬虫類のトカゲにもうろこがありますが、ヘビのうろこの形とだいぶ違います。霊長類の脳は、ヘビ特有のうろこの形を無意識のうちに認識しているのです」と説明しています。 この研究成果は、昨年11月にオンライン総合科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
ヒトの脳が発達したのはヘビがいたから?
霊長類がほかの動物より脳が大きくなったのは、ヘビを早く見つけて身を守るために視覚野を発達させたからだという学説があります。 アメリカの人類学者リン・イズベル氏が発表した「ヘビ検出理論」で、川合教授の研究もこの理論に合致します。 川合教授によると、霊長類が地球上に誕生したのは約6500万年前。この頃の地球は温暖で、高さ30メートルを超える巨木の上に枝葉が生い茂り、その中で暮らしていたといいます。 ワシやタカなどの猛禽類は密生する枝葉の中にはなかなか入れません。ライオンやトラといったネコ科の大型肉食獣も高くまでは登れません。 しかしヘビは霊長類のはるか前から繁栄し、高い木の上にも登ることができます。 「霊長類は、誕生した時から6500万年以上にわたってヘビに襲われ続けてきました。そのヘビを早く見つけられる先祖が生き残り、私たちにつながっているのです」と川合教授は話します。 WHO(世界保健機関)によると、いまも世界中で毎年推定540万人がヘビに噛まれ、そのうち約8万~13万人が死亡、その約3倍にのぼる人に手足の切断や一生続く障害が残るといいます。 ヘビは現代の人類にとっても大きな脅威です。