〈目撃〉ライオンを狩る「戦闘ワシ」、初の詳しい報告 ケニア南西部のゴマバラワシ
「報酬」はリスクに見合うのか?
愚かとも思える狩りもするゴマバラワシだが、基本的にはリスク回避型の鳥だという。「子ライオンを襲うリスクについても十分に認識しています」と、ハットフィールド氏は語る。 とはいえ狩りの記録からは、慎重さが必ずしも見て取れるわけではない。 母親のすぐそばにいる生後6週の子ライオンを捕らえようとして失敗したケースがある。急降下してくるゴマバラワシに気づいた母親は反撃を加えようと空中に跳び上がった。「母親ライオンが視線を定め、姿勢を低くしてジャンプする姿がわかります」と、ハットフィールド氏は言う。 ゴマバラワシは母親の反撃をかわし、子ライオンを取り逃がした。この狩りは「愚かな行動」だった。ハットフィールド氏はゴマバラワシが母親ライオンを見ていなかったのだろうと推測する。こうした狩りはゴマバラワシにとって非常に危険で、「単に遊び目的でやっているのではないかと疑いたくなります」と、氏は言う。 英オクスフォード大学の保全生物学者エイミー・ディックマン氏は、一度狩りに成功すればゴマバラワシが繰り返し子ライオンを襲ったとしても驚くことではないと言う。ケニアとタンザニアで人間と野生動物の共存を目指す非営利団体「Lion Landscapes」を率いる同氏は、ハットフィールド氏とチームの結論を「妥当」と評価する。 ライオンにとってゴマバラワシは「対処しなければならいないリスクの1つにすぎません」と氏は言う。つまり、ハイエナや敵対する群れのオスライオンと同じということだ。 ゴマバラワシはライオンの保全にとって脅威にはならないものの、もしライオンの子どもが食料源として狙われるならば、特定の地域の群れにとってはストレスになるかもしれないとディックマン氏は考える。「自然界は多様で興味深いのです」
ゴマバラワシなどの猛禽にもっと関心を
ゴマバラワシが狙う大型ネコ科動物はライオンだけではない。チーター(Acinonyx jubatus)やヒョウ(Panthera pardus)、リカオン(Lycaon pictus)、カラカル(Caracal caracal)の子どもを狩った記録もある。しかし、その関係は一方向ではないだろうとハットフィールド氏は指摘する。 ライオンがゴマバラワシや巣を狙うことも可能で、実際にそういうことも起こっているだろう。ヒョウがゴマバラワシを襲っている動画もある。 「食物連鎖の頂点にたつ捕食者たちの関係は複雑なのです」 ハットフィールド氏はこうした調査によって、国際自然保護連合(IUCN)が絶滅危惧種(endangered)に指定するゴマバラワシにもっと関心が集まることを願っている。アフリカの他の猛禽類の例に漏れず、ゴマバラワシも生息域の喪失、密猟、感電死、迫害に直面している。 「ゾウ、ライオン、サイにはとかく注目が集まりますが、猛禽類も私たちの目の前で絶滅に向かっているのです」
文=Joshu Rappo Learn/訳=三好由美子