後発の「楽天ポイント」が見せた逆転劇、王者「Tポイント」を抜き去った“戦略の大転換”とは?
■ 自らが作った「排他ルール」で窮地に追い込まれたTポイント ──著書では、日本初の共通ポイントを立ち上げた元CCC副社長の笠原和彦氏について詳細に描いています。同氏は2014年の楽天入社後、「楽天ポイント」の事業総責任者に就任し、Tポイントとは対照的な戦略を採ったことに触れていますが、そこにはどのような狙いがあったのでしょうか。 名古屋 笠原氏はCCC在籍時、Tポイントの「1業種1社」ルールを推進し、業界1位の企業を加盟店に迎え入れることで、後発のポイント事業者が2位以下の企業としか組めないようにしました。当時、Tポイントと加盟企業が結ぶ規約には「Tポイント以外のポイントは導入してはならない」「他のポイントの導入検討をしてはならない」という文面があり、非常に強力な排他ルールとなっていたのです。 加盟店にしてみると、仮にTポイントへの加盟をやめた場合、代わりに加盟した同じ業界の競合他社から、顧客データを活用して追い落とされるかもしれません。そのため、加盟店側としても「既得権を手放したくない」という心理が働くのです。 Tポイントは、この排他的なルールにより競争優位性を確立しました。そして、笠原氏は楽天に転職後、自らが作った排他ルールに行く手を阻まれる形になったのです。そこで「Tポイントと同じ土俵で戦っても勝てない」と考えた同氏は、「囲い込む」Tポイントに対して、業種や地域にとらわれない「オープンな関係構築」によって加盟店開拓を進めました。 ポイントビジネス20年の歴史を見ると、1業種1社のTポイントが圧倒的だったのは最初の10年で、後の10年はオープンな関係を打ち出した楽天ポイントやdポイントが一気に伸びてTポイントを打ち破っています。 ここでキーになるのが「データをどれだけ持っているか」「ポイントがどれだけ流通しているか」という尺度から成り立つ「経済圏」の概念です。Tポイントの排他ルールは強力ではあるものの、運営元のCCCは加盟している1業種1社のデータしか収集できません。 一方、楽天ポイントでは幅広い購買データを蓄積しています。例えば、外食チェーンという業種でも、ファミレスのみならずファストフード、カフェ、居酒屋のデータもそろっている方が、購買データの質が高くなります。その部分ではポイント事業者と加盟店はオープンな関係を築くことで、データマーケティングの戦略上優位に立てるわけです。 そして、最も重要な点が「ポイントの流通量」です。これは経済圏の強さを示す指標となります。例えば、Tポイントは年間1000億円分が流通していますが、楽天は7000億円分のポイントが経済圏の中で循環しています。多くのポイントが流通しているため、消費者は積極的にポイントを利用でき、加盟店もたくさんのポイントを使ってもらえるメリットがあります。 経済圏を築く上で欠かせない「データとポイントの量」という観点で見たときに、排他的なルールでは、どうしても狭い世界のデータとポイントしか使えません。楽天は加盟店とのオープンな関係を築くことで、より大きな経済圏を構築する発想があったのだと思います 競合他社が先行するマーケットに参入するにあたり「競合が排他的なのであれば、自分たちはオープンな戦略で勝負しよう」という逆転の発想です。当事者の立場だと発想転換は難しいものですが、うまく機能させることで戦局を大きく変える転換点になるのだと思います。
三上 佳大