「最後の3年」安倍首相 性急な改憲議論に立ちはだかるハードル
連続3選を目指す安倍晋三首相(自民党総裁)と石破茂元幹事長の一騎打ちとなった自民党総裁選が20日行われ、安倍首相が新総裁に選出されました。任期は2021年9月までで、安倍政権「最後の3年」がスタートします。当選後の会見で「7割近い得票を得た。強力なリーダーシップを発揮せよと力強く背中を押していただいた」と語り、全世代型の社会保障や戦後日本外交の総決算、憲法改正の実現に向けて意欲を示した安倍首相ですが、今後の政権運営は盤石なのか。政治学者の内山融・東京大学大学院教授に寄稿してもらいました。
◇ 9月20日、自民党総裁選が行われ、安倍首相が3選を果たした。今回の総裁選は、405票の国会議員票と、同じく405票の地方票によって争われた。地方票は全国の党員・党友(104万人)による投票であり、各候補の得票を全国規模で集計し、その得票割合に比例して、405票を各候補に配分する。国会議員票は安倍首相が329票、石破元幹事長が73票であった。地方票は安倍首相が224票、石破氏が181票だった。合計で安倍首相が553票を獲得し、254票を得た石破氏を破った。 この総裁選で強く印象づけられたのは、劣勢といわれていた石破氏が意外に善戦したことである。以下に述べるように、このことは今後の政局にも影響を与えると考えられる。
安倍首相が「どのように」勝つか
今回、安倍首相3選の流れはほぼ確実とされていた。そのため、注目点となったのは、安倍首相が勝つか負けるかではなく、「どのように」勝つか、ということであった。圧勝でなければ、今後の政権運営に影響力を失う「レームダック」になるおそれがあったからである。 今年の春から初夏頃にかけては、森友・加計学園問題などのために内閣支持率が低下し、安倍首相の3選が危ぶまれていた。しかし6月の新潟県知事選を契機として支持率は復調し、通常国会閉幕の頃までには安倍3選の流れができつつあった。 国会議員票については、安倍首相は早いうちから主要派閥(細田派、麻生派、岸田派、二階派、石原派)の支持を得て7割程度を確保していた。その後、8割程度にまで支持を増やしたといわれている。実際、安倍氏は議員票の81%を獲得した。 問題となったのは地方票である。この総裁選は安倍政権の信任投票という意味もあったため、安倍首相が地方票でどの程度獲得できるかが注目された。 この点で今回よく引き合いに出されたのは、2012年に行われた総裁選である。このときは、第1回投票で石破候補が地方票を165票取り、87票の安倍候補と大きく差を付けた。議員票と合わせて過半数を取った候補がいなかったため、国会議員のみによる決選投票が行われ、安倍総裁が誕生した。 このときの経験から、安倍陣営は地方票を固めることに注力した。安倍首相は地方に精力的に足を運び、政権の実績をアピールした。一方で、森友・加計学園問題に象徴される安倍首相の政治手法に批判的な声も地方には相当あった。 結果的に、地方票405のうち安倍首相は224票で55.3%、石破氏は181票で44.7%となった。安倍陣営が最低ラインとしていた55%はかろうじて上回ったが、国会議員票で安倍首相が得た割合からは大きく下回った。一方の石破氏は、下記のように不利な状況があったにもかかわらずこれだけの地方票を取ったことから、大いに善戦したとみてよいだろう。