「最後の3年」安倍首相 性急な改憲議論に立ちはだかるハードル
「45%」が石破氏を支持した地方票
今回、安倍首相が石破氏に大差を付けて3選を果たしたので、当面の間政局が安定するのは確かだろう。一方で、この先の政権運営を不安定化させる要素もある。 地方票の45%近くが石破氏に向かったことは、安倍首相の政治手法に批判的な人たちが自民党員の中にもかなりの程度存在することを意味する。そのため、安倍首相がこれまでのような政権運営を維持できるか、必ずしも見通せない。投票直前に小泉進次郎氏が石破氏支持の意向を示したことも注目される。国民に人気のある小泉氏の動向は、安倍政権の運営に大きな影響を与えかねない。 今後の石破氏の動向も目が離せない。圧倒的に劣勢といわれていたにもかかわらず250票以上を獲得したことにより、石破氏の党内での発言力が増すと考えられる。その一方で、自民党内で小泉氏ら次の世代への交代が進む可能性もある。 さて、3選を果たした安倍首相がこれからもっとも力を入れるのは憲法改正であろう。安倍首相は、自民党の改憲案を次の国会に提出する意向である。スケジュールはタイトであるが、作業を急げば来夏の参院選前の発議も不可能ではない。実際、8月に出された麻生派の提言では、参院選前の国民投票実施を求めている。 しかしそれにはハードルも立ちはだかる。まず、上述のとおり安倍首相の手法に批判的な声が自民党内にも一定程度存在する。政権が性急に改憲手続を進めようとした場合、党内からそれを牽制する動きが出てくるかもしれない。 そして、連立与党の公明党は、来年の参院選などで改憲が争点になることを好んでいない。公明党の意向を無視して改憲スケジュールを進めるのは容易ではないだろう。 また、野党第1党の立憲民主党は、安倍政権下での改憲には反対の姿勢である。従来、憲法審査会での議論は野党第1党の理解を得ながら行ってきたが、こうした慣行をどう扱うのだろうか。 来年5月に予定される皇位継承は静かな環境で行うべき、との声も強い。皇位継承の最中に憲法論議が行われることについて、世論はどう見るだろうか。 その上、国民投票の実施に漕ぎ着けたとしても、仮に否決されると内閣の命運が危うくなるリスクがある。実際、英国のEU離脱の国民投票では、残留案を否決されたキャメロン政権は退陣を余儀なくされた。しかも、国民投票によって英国民が分断されてしまい、今英国政治は混乱状態にある。 以上のようなことを考え合わせると、全体で7割の票を得たとはいえ、総裁3選後の安倍政権は必ずしも盤石とはいえない。より慎重な政権運営が求められるのではないか。