”予期せぬ妊娠”は誰にでも起こりうる…漫画家・鳥飼茜が伝えたいこと
“予期せぬ妊娠”をした後に「中絶」を選べない怖さ
2024年7月には、厚生労働省が経口中絶薬の使用条件を緩和する方針を明らかにした。現状としては、投与は入院できる医療機関に限定し、中絶が確認されるまでの間、女性の病院待機を必須としているが、緊急時に適切な対応が取れれば、無床診療所での投与や投与後の帰宅を可能とする方向で検討している。だが、他国に比べてまだまだ条件は厳しいものがある。 鳥飼フランス人の記者からインタビューを受けた際、「ようやく日本でも経口中絶薬が承認されますが、なかなか認められなかったことについてどう思いますか」と聞かれたのですが、その時は、日本で経口中絶薬の認可が迫っていることを私は知りませんでした。 一方、アメリカでは、中絶禁止の方向で動いている州がいくつもあります。倫理的な問題、宗教的な問題もあり、今後その勢力がさらに拡大する可能性も高そうです。このアメリカにおける状況は、私たち日本人にも無関係ではないものだと思うんです。 今、日本にいる私たちは、予期せぬ妊娠の時に「中絶」というカードも選ぶことができますが、アメリカの現状を見ると政治の思惑などで、「やっぱり中絶はNGにします」といった状況に陥る可能性もゼロではないのではと感じていて……。もしもそうなってしまった場合、その動きを止められるのかとても不安になります。 正直なところ日本に住んでいると、私自身含め声をあげて政治を動かすことが非現実的なことに思えます。万一、「中絶NG」となった時、予期せぬ妊娠をしても産まなくてはならない状況に立たされる確率は決して低くないと思ったので、その怖さも書いておきたいと考えていました。 『バッドベイビーは泣かない』は冒頭から経口中絶薬についての記述がある。同作を手がけるにあたり、鳥飼さんは経口中絶薬やアフターピルについて、さまざまな資料を読んだ。特に印象深い記事を書いていたジャーナリストには、直接、話を聞きに行ったという。 鳥飼さまざまに話を伺い、ジャーナリストの方からも質問を受けました。そこで、改めて知り、衝撃的だったのは、日本で経口中絶薬の認可が遅れた最大の理由は、言ってしまえば“決定権のある者にとってメリットがなく、誰も積極的でなかったから”という単純かつごく消極的なものでした。さらに、当事者である女性が提言する場所がなかった──。中絶の問題だけではなく、日本では当事者が置いていかれることは決して少なくない、ということを再認識しました。